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「泣いてたって…誰だかわからないって…どういうことよ?」


オルガは眉間にシワを寄せてソファーの背もたれに腰をかけた。レディーは変わらずに掌を見続けている。誰かがこの手を包み込んでいてくれていた。誰かが、私を抱きしめていた。でも誰かはわからない。記憶を取られてしまったように空白の時ができている。


「わからないものはわからないの」

「・・・誰かに忘却呪文をかけられたのかもしれないわ。ブレスレット、持っていけばよかったわね」

「そうね、あのブレスレットしてれば一度だけ魔法防げたもの」


ハハハと笑えば頭に満天の笑顔になったフレッドとジョージが浮かんだ。そうだ。あのブレスレットさえしていれば、私は記憶を取られずに済んだ。
ネックレスに手を当てて目を閉じて、昨夜を思い返そうとしてもやっぱりどうしても思い出せない。


「まぁレディー、とりあえず部屋に行こ。着替えて、朝ごはん食べて、そうすれば元気になるわよ」

「ええ、オルガありがとう」



弱々しいレディーにオルガは背中をポンと叩いて、大広間へと連れ出した。


‐‐‐‐‐‐‐


大広間に着いたとたんにオルガは呟くように言った。眉を寄せて、誰かに聞かれたらまずいだろうな、という感じでレディーに話しかける。


「そういえばさ・・・」

「何?」

「ロンがハーマイオニーを振ったらしいわ」

「あ…」

「正確に言えば、ロンがラベンダーと付き合いだしたらしいのよ」

「あれ…本当だったのね…」

「レディー知ってたの?」

「天文台行く前に見ちゃったの」

「なにを」

「二人がキスしてるところ」



オルガが反吐が出そうな表情をしながらグリフィンドールの席を見た。オルガはラベンダーを好んでいない。なんでも性格が嫌だとか。気持ちはわからないでもない。私はハーマイオニーの方が好きだ。彼女の方を応援してあげたい。

話しを切り替えようと、勉強の話しをしようとしたオルガは、斜め前の女の子が作っていた編み物に目がいった。マフラーを作っているようだ。


「あー…もうクリスマスね」

「そうね、一年って早いわ」

「レディー、あなたどうする気よ?」

「は?なにが?」

「なにがじゃないわよ。クリスマスパーティーよパーティー!スラグホーン先生に誘われてるんでしょ?」

「あぁ・・・すっかり忘れてたわ」


本当に忘れていたようで「あーあ」と言いながらコーヒーをスプーンで回した。オルガは片眉を上げて思わずため息を吐き捨てる。


「全くもう!で、誰を誘うわけ?」

「ドラコ誘いたいけど、どうせ断られるだろうしね」

「いいじゃない!試すだけの価値あるって!砕けてきなさいよ」

「別に構わないけど…無理だと思うわよ」


コーヒーカップをカチャっと音をさせて置くとレディーはため息をつきながら立ち上がり、ドラコがいるであろう談話室へと足を進めた。


‐‐‐‐


「無理だ」


談話室でドラコを無理矢理呼び止めるなり言われた。
まだ何も言ってないのに。


「私まだ何も言ってないんですけど」

「だいたい想像できるんでね」


ここまで言われると逆に嬉しいものだ。長い間一緒にいないと、こんなこともきっと言われない。別れてしまってもなんだかんだでドラコはドラコなんだと改めて実感した。前よりも冷たくなっただけで。


「あーそうですかー。ドラコは私のことなんでも知ってるからね」


クスクスと笑えば、ソファーで暖炉を見ていて目を合わせてくれなかったドラコがようやくこちらを向いた。眉を寄せて酷く嫌そうな顔をしている。


「冗談も休み休み言え」

「あら冗談じゃないわよ」

「知っているわけないだろ」

「私の家の犬の名前は?」

「知ったことか!」


ムキになっていうドラコを見て心が暖かくなった。三年生の喧嘩をよくしていたあの頃に戻った気分だ。
全くなんなんだ、と愚痴をこぼして視線を背けたドラコの顔を無理矢理引っ張って、頬にキスをしてやれば真っ赤になって振り払われた。



「何をしているエジワール!」

「ドラコ、あなた前に戻ったわ。ちっとも冷たくなんてない」



レディーのその言葉で目を覚ましたのか、ドラコは俯いてレディーには聞こえないくらいの小さな声で呟いた。
談話室に人がいなければ聞こえていたかもしれない。だが昼時だ。チラホラ生徒同士が話をしていて少しうるさい。


「    」

「え?何?」

「うるさい黙れ!とにかく僕は忙しいんだ!話しかけるな」



問い詰めるとドラコは談話室から走って出て行ってしまった。少し顔を赤く染めて。



(なんて言ったのかしら?)





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