突然言われた『好き』という言葉に頭が動かない。まるでショートしたような感じだ。でも心臓は暴れて、冬の寒さなど感じないほどに暑い。ついこの間までは『嫌い』と言っていたこの男の口は、反対の言葉を吐いていた。
「な・・・なんて言」
「好きだ」
「った・・・の、よ…」
一瞬呼吸が止まり、涙が溢れた。大粒の涙がポロポロと頬を伝う。
ドラコに体をゆっくり放される。顔がよく見えた。この間追いかけた時とはまるで違く、真剣に目を合わせてくれる。アイスブルーの瞳が、なんだか今日は違って見えて、でも本物のドラコだ。
「本当に?」
「嘘じゃない」
「ド…ドラコ、だってこの間は私のこと」
「嫌いと言ったな」
胸の奥がズキリと痛んだ。ドラコと目を合わせていられなくなって思わず俯く。
「じゃあなんでいきなり、あの時は話もさせてくれなかったじゃない…それにここにいることも…」
「流星群だろ?忘れるわけないんだ…」
空を見て悲しそうに自嘲気味に笑ったドラコは、今にもどこかに行ってしまいそうで怖かった。唇を噛み締めてドラコを見上げる。
目が合うとドラコは目を細めて微笑んだ。
「レディー、頼みがあるんだ」
「な、なに?」
「抱かせてくれ」
「は・・・?」
固まる私にドラコは髪を優しく撫でてもう一度言った。ドラコの手は冬なのに暖かい。
「抱かせてくれるか?」
「わ…私」
ドラコは顔を赤くして焦るレディーを見てフッと笑ってそっと抱きしめた。
懐かしい薫り。優しい体温。全てがレディーを包みむ。
「・・・・わかっ…た…」
「ありがとう」
もう、これで最後だから。
小さく言ったドラコのその一言はレディーの耳には届かなかった。
‐‐‐‐‐
先生や生徒に見つからないように来た久しぶりの寮のドラコの部屋。懐かしい空気に思わず涙ぐんでしまう。
部屋をキョロキョロ見渡しているとドラコに腕を捕まれベッドに押し倒された。相変わらず柔らかいベッドだ。ホグワーツのベッドは寝心地悪いわけではないがこの部屋のは格別。
「…っ」
頬を染め、瞳を潤ませるレディーの首に付けている、自分があげたバラのネックレスを見て、唇をグッと噛み締め目を閉じてキスを何度も落とした。
レディーの口の中に舌を入れて口内を犯すと、レディーもドラコも息を切らせながら見つめ合った。
もう絶対に結ばれることがないと思っていた男に、まさかもう一度愛してもらえるとは思っていなかった。レディーが目を閉じると、涙が一筋頬を伝った。
「レディー・・・?」
「私、もうドラコに本当に愛されてないかと思ってたの。オルガに言われたわ。ドラコの父親は死喰い人だからドラコもそうよって、でも違うでしょ?」
「・・・あぁ、違うさ」
「よかった…―」
「・・・」
そういうとなぜかドラコはあまりにも切なそうに顔を歪めた。涙を今にも流しそうな顔。
レディーの服を器用に脱がしながら首、耳、腹、胸、足と、次々にキスを落としていく。そのたびに声を出すレディーの顔をしっかりと見つめて、また悲しくなってギュッと抱きしめた。
「レディー好きだ…」
「私も好きよ…。ドラコ泣いてるの?」
繋がる最中にレディーがドラコの頬を撫でると、何故か濡れている頬にレディーは疑問を抱いた。
「・・・」
「ドラコなんで泣いてるの?」
「愛してる・・・永遠に。僕を許してくれレディー」
レディーの肩にぼたぼたと落ちる涙にレディーは眉間を寄せた。頭を優しく撫でれば止まらない涙に、胸が裂けるような気持ちになった。
「な、なんのこと?何を言ってるの?」
「これで最後だ…」
意味深な言葉に耳も目も体も頭も追いつかない。再び訪れる快感に、すぐにそのことを忘れてしまった。
‐‐‐‐‐
情事が終わるとドラコはレディーを見つめて唇にキスをした。起こさないよう服を着せ、ベッドに寝かせたままドラコは杖を構えた。
レディーのまぶたがピクピクと動きユックリと目を開ける。
「ドラコ・・・?」
ベッドの上でレディーは目を覚ますと、目の前には自分に杖を突きつけている彼。目を丸くして壁に向かって退いた。
「な、なんでドラコ・・・私のこと、好きだって」
「・・・言った。好きだし、愛してる」
「じゃあ杖を下げてよ!!」
胸元を押さえて叫ぶレディーに、ドラコは杖を降ろす気はなかった。顔が青くなり、恐怖に身が奮えても、レディーはドラコの頬に再び流れる涙にすぐに気付いた。
「・・・すまないレディー本当に」
「ド、ドラコ…貴方、涙…」
「オブリビエイト」
杖から光りが溢れるとレディーは気絶した。お姫様抱っこをして夜中の階段を降り、談話室のソファーに寝かせてブランケットを掛けてキスを落とした。
「もう、これで本当に最後だ・・・」
頬に伝わった涙を拭いて、顔つきを変えると、ドラコは再び暗闇の中に消えていった。
‐‐‐
記憶はそこから飛んだ。目が覚めた時にいた場所は何故か談話室。
怒鳴るオルガの声で目覚めたレディーは、目の前で腰に手を置いて怒鳴り付ける女をまだ開ききらない目でジッと見つめた。
「レディー!なんでこんなところで寝てるのよ!!風邪引くでしょ!?」
「・・・オルガ」
「何してたの!?心配かけて!」
まったくもう!と続けるオルガに一度微笑みきれない笑みを見せて自身の掌を見た。
何故かまだ暖かいと感じてしまう掌に涙が溢れる。
「天文台でドラコに会った気がするの、だけど、そこから記憶がない。天文台から一人で帰ってきた記憶もない」
「え・・・?」
「泣いてた…誰かが、とても悲しそうに。誰かわからないけど」
泣いてたの…
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