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「ドラコ!」


もう何度名前を呼んだことだろう。
それでも足を止めずに走りつづけるドラコを必死に追いかけた。雪が積もっていて走りにくい。ホグズミードだけ夏ならよかったのに。そうしたらこんなブーツ投げ捨てて、彼の背中に飛びつくことができたわ。


「…ドラコ!!止まって!」


しばらく走って、二人の息が荒れ始めた頃。ドラコは急に足を止めた。決して目を合わせずに背を向けた状態で口を開いたのだ。


「なんだ」

「…ハァハァ…。あのね、急に別れるなんて言われて『あぁそうですか』って言えるわけないでしょう!?どうして私と目を合わせようとしないの、理由を教えてよ!」


冷たい空気が肺に入って少し痛い。ドラコは相変わらず前を向いたままだ。それにしても彼は薄着だ。風邪をひいてしまいそうなくらい。


「…」

「ねぇ…教えてよ…」


ゆっくりと振り返った彼の顔は、酷く切な気で、その顔を見ただけで涙を誘うような表情だった。


「エジワール、僕はお前を嫌いになった。それだけだ」


ドラコからの冷たい言葉はレディーの心を簡単に痛めつけたように思えた。しかしレディーは一度目を細めた後、笑顔になった。何を考えているのかわからないドラコは、眉間にシワを寄せレディーを見つめる。



「そっか…わかったわドラコ!」

「そうか、ならこれからはもう僕を追わないでくれ」

「なぜ?」

「なぜって、聞いていただろ!僕はエジワールが嫌いだと」

「ええ、聞いてた」



平然としながら応えるレディーに苛立ちを覚えたのか、ドラコはついに怒鳴り声をあげた。まるで三年生の時のようだ。私たちはいつもこうやって声を上げて喧嘩をしていた。



「ならわかるだろう!?もう僕に関わるな!!」

「でも私はドラコが好きだもの、ドラコが私を嫌いになっても、私がドラコを嫌いにはならない」

「・・・レディー」


まるでしまったとでも言うようにして口を抑えたドラコを、レディーはただ目を丸くして見つめた。雪を踏みしめ一歩前に出ると、ドラコも同じように後ろに一歩下がり距離を置いた。


「ドラコ・・・今、私の名前・・・」


レディーの真っすぐな瞳に嘘はなかった。
ドラコは意図もせずレディーの名前を口から漏らしていたのだ。舌打ちをしながらドラコはレディーをキッと睨んだ。


「呼んでない!もう僕に関わらないでくれ!!ついてくるな」

「ドラコ私はいつでも貴方の味方だから!」

「―っ・・・だからお前が嫌いなんだ」



最後の小さく呟いた言葉はよく聞き取れなかった。そのまま、ドラコはまた走り去り雪の降る中に消えてしまった。

遠くに行くドラコを目を細めて見つめる。久しぶりに名前で呼んでもらった気がする。やっぱりエジワールよりもレディーのほうが嬉しい。

「!」

雪の中に涙が一粒落ちた。自分でも気づかずに泣いていたのだ。目を合わせてもらったことですら嬉しい。それ程までに彼を求めていたのだから。



レディーはため息を吐き捨てて三本の箒へと戻っていく。

雪の中に吐き出した白いため息は、静かに消えていった。


‐‐‐‐‐‐‐


「レディー!おかえり!」

「やぁ!戻ってきてくれてよかった!」

「先生!」


三本の箒へ戻るとオルガとスラグホーン先生がレディーの名前を呼んだ。待ってましたと言わんばかりに席へと促される。オルガはバタービールもう来てたのよ?と言って目の前に差し出してくれた。


「レディー!全く貴女どこ行ってたのよ!」


肩を思い切り捕まれた。オルガは「あーこんなに冷たくなって」等と言っている。
雪を払いのけるオルガに苦笑いをして応えた。


「なんでもないわ」

「なんでもないって…あ!レディー、スラグホーン先生がね、貴女をパーティーに誘いたいんですって!!」

「え?」


笑顔になったオルガの肩を掴んで先生は微笑んだ。相変わらず優しそうな顔をしている先生は、レディーの頭に付いた雪を払いながら言った。



「優秀な子を招くパーティーなんだよ、ぜひMs.レディーを誘いたいんだ」

「え、私ハーマイオニーみたいに凄く勉強が出来るわけじゃないですよ…」


手をブンブンと振るレディーにスラグホーンはまた優しげに笑う。隣のテーブルにいたハーマイオニーはそんなこと無いじゃないと苦笑いしている。


「レディーは学年トップ10には入るだろ?」


隣のテーブルからロンが声を上げた。レディーは片眉を上げながら謙虚に首を振る。実際その通りで、レディーの成績はまぁいい方だった。ハーマイオニーは当然1位だがレディーも5位にはなれるほどの成績を残している。


「そうじゃなくて、この間の実験でキミは純白の液体を出したろう?」


以前の魔法薬学の授業を思い出して「ああ」と思わず声を出した。


「あの液体を出すのはなかなか出来ることじゃないんだ、それにキミには興味があるからね、来てくれるかい?」

「光栄ですわ先生」

「それじゃあ後で招待状を送ろう、ではまた」



スラグホーンが店から出ていくとオルガに「やったじゃない」と褒められた。肩を叩く友人に苦笑いをしながらも、頭の中はドラコでいっぱいだった。



(ねぇ私が無理矢理にでもキスしてたらあなたは抱きしめてくれたかしら)
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