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ベラが愚痴を言いまくっていた日は終わり、次の日になった。

今日の授業も一通り終わり、ルシウスはナルシッサと共にスリザリンの談話室にいた。いつものソファに座ろうとすると、一人分の頭が見える。

あぁ、あの髪色には見覚えがある。昨日噂になっていた男じゃないか。とルシウスは思った。



「あ、ヤッホールシウス!それにナルシッサも」



スリザリンの生徒らしくない笑顔で挨拶をしてきた彼は、手に持っていたチューイングガムを振り回していた。彼の首元はいつもだらしがない。ネクタイがよれよれなのだ。


「ロデオ…ネクタイぐらいちゃんと閉めたらどうだ?」



ロデオは「いいのいいの、コレ苦しくて嫌い」と言いながら一人で陣取っていたソファをもう二人座れるように移動した。「どうぞ」と言い、ルシウスを隣に座らせた。


「ナルシッサも座りなよ」

「ありがとうロデオ、でも部屋に戻るわ」


ナルシッサはそう言って行ってしまったので、彼は残念そうに笑いながら、ソファに座りなおした。

ルシウスは飽きれながらも腰掛ける。



「おい色男。お前どちらか選んでやったらどうだ?」

「え?何を?」

「白々しい。ベラトリックスか、グリフィンドールのサリア・エジワール」



ロデオはあぁあの二人ね。と言ってチューイングガムを膨らませた。口元では笑っているが目は笑っていない。

苦笑いをするルシウスに、ロデオは試すように言う。



「さて、どっちを選ぶでしょう?」

「まさかグリフィンドールの女を選ぶ気か?確かにエジワール家は純血だがあそこはウィーズリー家のようなものだぞ。グリフィンドールしか出ていないからな」

「あぁルシウス、お前ってやつはどうしてそう悪い方に考えたがるんだ」



ロデオは大げさに仰け反り、おでこに手を置いた。ルシウスはそんな態度にムッとしながらも話を続ける。



「じゃあベラトリックスか?」

「俺は別に純血主義者でも、スリザリンの信者でもないし、ベラのことを好きなわけでもないけどね。気まぐれでも付き合うならブラック家の方かな。美人だし」



それに退屈しなさそうだし。と、付け加えて笑った。ロデオは何を考えているかわからない男だ。翡翠色を持った目が湾曲を描いて笑っている。少しゾッとする笑顔だ。



「エジワールはきっとご乱心だな。お前のことを好きなようだから」

「そうなんだよルシウス、俺殺されるかもね」

「なぜエジワールに好かれているのか知らないのか?」

「それが聞いてくれよ親友!」



誰が親友だ。と言いたかったがルシウスは言うことを止めた。話が逸れると思ったのだ。
ロデオは両手を広げて、一人劇場を始めてしまった。



「ロデオ・ハウエルは、ある日嘆きのマートルのいるトイレで見つけちまったのさ、“泣いている女の子を”!彼女はマートルによしよしされて、ピーピー泣いてて、それはもう不細工だった」

「お前なんでマートルのいるトイレに行ったんだ。あそこは女子トイレだろ」

「それは後で言うよ」


早口になりながら、ミュージカルの邪魔をするなと怒られた。なぜ私が怒られなければならないんだ。


「ピーピー泣いている女の子の名はサリア・エジワール。少年はすかさず女の子へと駆け寄った」


ロデオがルシウスの体に手を回した。ルシウスは気持ち悪いと言いながらその手を叩き落とすが、懲りずにまた手が伸びてきた。
ロデオの自称ミュージカルは続く。



「マートルはこう言った、『彼女とてもいい子なのに同級生に虐められたの』と。優しいロデオ少年は同情して彼女の背中を撫でてやったのさ」

「完全にそのせいじゃないか」


ルシウスの言葉など気にもせずにロデオは立ち上がった。周りの生徒はまたやってるよ。と言ったような目でこちらを見ている。



「彼女が顔を上げてロデオ少年を見つめた。頬が段々赤くなっていく…少年はマズイと思った、その視線は情熱を帯びていたんだ!」

「色男がその気にされることしたからだろ。自業自得じゃないかエジワールに同情するよ」

「少年は残りをマートルに任せてその場から逃げた!名前など言っていない。しかし俺の名はその子に知られてしまったのさ!!」

「嘆きのマートルがサリアに教えたんだろ。マートルは殆どの生徒の名前を知ってるからな」

「ピンポン!大当たり!!賞金はチューイングガムです!」



いらねぇよと、ルシウスはチューイングガムを引っ叩いて床に落とした。ロデオは何も言わずにそれを拾いローブのポケットへと突っ込む。



「そういうわけで、俺はその日からサリア・エジワールに猛烈なアピールを受けているのさ」

「その猛烈アピールが鬱陶しくてシカトし続けているんだろ」

「ルシウス、お前はエスパーなのか?」

「魔法使いだ。あー…ロデオ、エジワールにハッキリと言ってやればいい」

「なんて」

「お前のことを好きになれないと。ハッキリ言わなければわからないやつもいるんだ」

「ハッキリ…」



ロデオは顎に手を当てて悩んだ。ルシウスの言葉を何度も復唱し、念仏のように唱えている。そして突然立ち上がり、目を輝かせて言ったのだ。



「そうか!ハッキリだ!」


ロデオはそう大声で言い、走って寮を出て行った。途中ロデオと入り口ですれ違ったスリザリンの後輩が、冷や汗をかいてルシウスの元へやってきた。



「ロデオ先輩、すげーこと言ってましたよ」

「何時もさ」

「『ベラに告白だ!!』って、何時もですか?」

「!?」



何てことはない。
ロデオは馬鹿だったのだ。

サリア・エジワールが自分を諦める=自分が恋人をつくる

それしかもう、彼の頭の中にはない。ルシウスは、単純に

“告白を無視せずに振ってやればいい”

と考えて言っていたが、ロデオには伝わっていなかったらしい。
一度決めたら即行動の彼をもう止められない。今頃ベラトリックスを見つけて告白しているだろう。

頭を抱えてソファに座り込んだルシウスに、後輩は同情したように苦笑いをした。





ルシウスが懐かしむように微笑んだ。

聞く限りだと、ロデオはランドールみたいな奴だ。自分の容姿の良さに気づいていて、モテている自覚もあって、恋人を作ることも面白そうだとか、退屈しなさそうだ、とかそんな考えの人物だ。


そんな人物に恋をした母。ルシウスの話の中で、マートルは母のことを「彼女とてもいい子なのに同級生に虐められたの」と言っている限り、別に悪い子ではない。

それに去年、母から手紙が届いた時、マートルは私にこう言っていた。
「サリア・エジワールは、最初はとても優しい生徒だったわ。模範的で。ただ一人の男性を愛して全てを壊されるまではね」


優しい生徒だった母、サリアを壊したのは、そのロデオという男性ということになる。


ようやく整理が出来てきたレディーは、手を握りしめて話を進めた。



「じゃあベラトリックスさんとロデオって人は」

「ああ、その日に付き合ったよ。二人に愛など無かったがね。ロデオはサリアを自分から遠ざけるため、そしてベラトリックスはサリアの愛するロデオが、自分と付き合うことで優越感を得るために」



何だか悲しい話だ。私はドラコのことが好きだから付き合っているし、愛がなければ付き合いたいとも思わない。まして優越感を得たいからなんて…
ドラコも何かを感じたのか手を優しく握り、顔を見合わせて微笑んでくれた。



「母はそのあとどうしたんですか?」

「……その日からベラトリックスとサリアの仲は極端に悪くなった。殺意の入り混じった睨み合いは本当に恐ろしいものだったよ。卒業後、嫉妬に狂ったサリアはとんでもないことをしたんだ」

「卒業後?」



ドラコは首を傾げて聞いた。卒業したら晴れてみんなバラバラになるのではないかと考えているのだ。レディーも同じように考えていたため、首を傾げた。



「ロデオとサリアは就職先が一緒だったんだ。そしてここが面白い」

「「?」」

「ロデオはベラトリックスと“サリア避け”と考えて付き合っていただろう?それが、ロデオはベラトリックスに本当に恋をしてしまっていたのさ」

「ベ、ベラトリックスさんの方は?」

「ベラトリックスはロデオをどう思っていたか知らないが、卒業してからも二人は不思議と付き合っていたらしい。それが、サリアの怒りをより増幅させたのさ」






ホグワーツを卒業後、たまたま就職先が一緒だったロデオはその日夜勤だった。
そして、もう一人の夜勤者はサリア。二人の他には誰もいなく、静かな空間が流れていた。


「疲れたでしょ?一杯どうぞ」


サリアはロデオにコーヒーを出した。卒業してからというもの、サリアからのアピールは消えており、ロデオも完全に安心しきって彼女と接していた。


「そうだね、一旦休憩しよう」



もらったコーヒーを一口飲むと、ロデオの頬がすぐに赤くなった。

それをみたサリアは不気味な笑みを浮かべ「どうしたの?」と尋ねる。



「エジワール、俺…ベラがいるのに」

「ふふっ…今はいないわ」

「エジワール…」




ロデオはサリアの後頭部に触れ、長いキスをした。サリアはコーヒーに愛の妙薬を入れていたのだ。
薬に対抗することなど出来ず、ロデオはサリアに偽りの恋心を植え付けられてしまった。








レディーもドラコも目を丸くした。愛の妙薬には二人とも嫌な思い出がある。付き合えたきっかけではあるが、あの日のことを思い出すとお互い辛くてたまらないのだ。

愛の妙薬を手にしたい気持ちはわからないでもない。しかし偽りの薬で相手の気持ちを変えても、本当に嬉しいものではないはずだ。
それは薬を盛られたレディーと、そのレディーを好きなドラコだからこそわかること。

母親がそこまでしているとは思わなかった。確かにマートルが言っていたことは本当だ。彼女の人生を狂わせたのはたった一人の男だ。

しかしそれはサリアの言い訳に過ぎない。自分の人生を狂わせたのは、サリア自身なのだ。


ルシウスが顔をしかめた。レディーを見つめて、ため息をつく。


「レディー、どうかショックを受けないで聞いてほしい。本当のことを知りたいなら」


ドラコが手を握って大丈夫か?と聞いてくる。心臓は早く動いているが、彼が隣にいる限り、受け止められるだろうと思い頷いた。

ルシウスはわかった。と言いながら話を続けた。


「愛の妙薬を飲ませたその夜、行為をした二人の間に子供が出来たんだ」

「そ……それって」



ドラコは隣に座るレディーを、嘘だろうと、疑うように見た。
ルシウスも言いづらそうにしながらレディーを見つめた。ゆっくりと、落ち着いた声で、真実を告げたのだ。



「あぁ…その子供がキミだ。レディー」




初めて聞いた、私を産んだ母の話し。
それはあまりにも衝撃的だった。
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