「大丈夫かレディー?」
「えぇ…大丈夫。ちょっと驚いたけど」
ちょっとなんてレベルではない。ドラコがいなかったら今頃発狂していただろう。
まさか薬を使った偽りの愛から自分が生まれていただなんて…
そして一つ疑問が生まれた。エジワール家にいる父親は、ロデオという名前ではないのだ。
「ルシウスさん、そのあと、ロデオさんは一体どうしたんですか?今エジワール家にいる父親は、ロデオという名前ではありません。髪もブロンドじゃないし、瞳だって…」
ブラウンだから違います。
声がどんどん小さくなった。ルシウスは目をつむり言い辛そうにしながらも話を進めてくれた。
「サリアは、ロデオが赤ん坊のために一緒に生きてくれると確信していた。愛の妙薬を止めても問題無いと思っていたんだ。しかし赤ん坊のレディーが生まれても、ロデオはベラトリックスを愛していたから、サリアの愛には応えなかった。薬が切れたら、もうそこまでだったのさ」
「じゃあロデオはベラトリックスさんと結婚したのですか?」
「いや、していない。その頃ベラトリックスは我が…」
ルシウスは突然口を紡いだ。ドラコはそれを察したように口を出す。
「父上、レディーは父上がデスイーターだと知っています」
「!なぜ…」
「クディッチワールドカップの時に教えました。すみません勝手に教えてしまって。レディーには知る権利があると思って」
ドラコが頭を下げたので自分も一緒に同じことをした。やはり聞いていい内容では無かったのだと実感する。
「そうか、いや、いいんだ。それよりも話しを続けよう。我が君、レディーから言えば…」
「例のあの人…」
「そう、ベラトリックスはその頃、我が君だけを愛し、完全なる闇の魔法使いとなっていたんだ。愛を伝えてくるロデオは邪魔な存在になっていたのさ」
レディーは息を呑んで真剣に話しを聞く。
皮肉なものだ。恋をされた立場のロデオが、今度は普通に恋をして。恋をされたことを鬱陶しく思っていたら、今度は自分がそう扱われるなんて。
「しかしロデオはそれでもベラトリックスをひたすら愛した。それが鬱陶しくなったベラトリックスは、ロデオを殺したんだ」
「「・・・!?」」
「サリアはロデオに棄てられたことを酷く恨んでいた。そしてロデオに復讐をしようとしていた。しかし…」
「その復讐すべきロデオを、ベラトリックスが殺してしまった…」
ドラコが口を挟んだ。ルシウスはそうだ。と言いながら頷く。
恋をした相手に蔑ろにされ、ライバルとも言えるベラトリックスに好きな人を奪われ、そして復讐をしたいと思っていたら殺される。
サリアは想像を上回る経験をしてたらしい。
恋が複雑に絡み合うと恐ろしいのだと実感した。
「じゃあ母が…サリアが、私とスリザリンを嫌う理由は…」
「自分と赤ん坊を棄てたロデオが許せないんだろう。レディーの瞳の色は翡翠色、そして髪色もブロンドでロデオと一緒だ。それにロデオとベラトリックスの二人がスリザリンだったからな。きっとそのためだ」
「そういう事だったのね…」
サリアが執拗に私の瞳のことを嫌っていた理由がなぜなのかハッキリした。妹のアロマと何もかも違うのは、再婚した今の父親せいだろう。
サリアは私の目を通してロデオ・ハウエルと重ねていたのだ。愛の妙薬を使ってはいたが、自分を捨てた男を許すことが出来ずに。
「ルシウスさん、今日は本当にありがとうございました」
「いや、キミにとっては酷な話しだったろうに」
「いえ。母が私のことを不自然に嫌う理由を知りたかったからよかったです。それに、父親のことも…」
ルシウスはレディーに微笑みかけた。頬を優しく触り、懐かしさを帯びてこう言ったのだ。
「レディーはロデオに良く似ているよ。私は彼の事を、友として好きだった。いい奴だったよ」
「ルシウスさん…」
涙がレディーの頬をツーと伝っていった。ドラコが頭を優しく撫で、ルシウスは微笑んだ。
マルフォイ家の家族はレディーを否定したりしない。それが彼女にとって心から安らげる場所だったのだ。
レディーが落ち着くと、タイミングを見計らったようにドアの外から屋敷しもべが声をかけた。
「晩御飯の準備が整いました」
レディーが時計を見るともう7時を回っている。これはいけない。と、ルシウスは二人に声をかけ立ち上がった。
「さあ、行こうか。疲れただろうからたくさん食べなさい」
私は先に行ってる。とルシウスが部屋から出て行った。残されたドラコとレディーもゆっくりと立ち上がり扉へと向かう。
「…」
下を見て歩いていると、視界に影が出来ていく。唇に暖かいものが合わさった。
ドラコがキスをしていたの。
もう安心していいんだと言うように、彼は優しく微笑んで私の背中に手を回した。それがまた嬉しくて、知らないうちに涙が溢れてしまったわ。
ねぇ、見たこともないロデオ…いえお父様。あなたは私を望まなかったけど、私はあなたに感謝するわ。
(彼と出会えたんだもの)
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