今日はダンブルドア軍団の初の練習日だ。場所はもう伝えられている。
来たことのある場所の懐かしさに、思わずため息が漏れた。しかしここに来たことのないオルガは首を傾げている。
「何ここただの壁じゃない」
「必要の部屋って言うのよ。その人が本当に必要だと思う時に現れるの」
レディーが目を瞑ると何もなかった壁に扉が現れた。オルガは「わぁお」と声を上げている。
扉を見て懐かしむように眉を寄せて苦笑いをした。
「レディー来たことあるの?」
「アルワの時よ。覚えてる?」
三年生の時、ドラコを好きだったアルワというマグル生まれの子に呼ばれた場所はここだった。あの時は必死だったが、私はまだ愛を知らなかった。まだ付き合ってもいなくて、相手を好きになる感覚すらわからずにいた子どもだった。
「懐かしい場所よ」
「レディー…」
「さぁ、入りましょうオルガ」
レディーは扉をゆっくりと開けた。
今日から練習だ。決してバレないように。みんなと一緒に強くなる。
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スリザリンの寮にいたのはドラコだけだった。みな大広間や図書室などに行っていたのには訳がある。寮にいるドラコの機嫌が悪かったからだ。
ソファに座るなり置いてあった本を放り投げ、舌打ちをしながら頬杖をついていた。
生徒たちは「触らぬ神に祟りなし」と言いながら談話室を出て行いった。
一人になった談話室で、暖炉の炎をドラコはただ呆然と見つめるだけだった。
そんなドラコを見つけたランドールは、遠くからその姿を見てため息を吐き、一度自室へと戻ってある写真を持ってきた。
そして暖炉の前へと周り、ドラコの目の前にその写真を突きつけたのだ。
「なんのつもりだ」
「ダンスパーティーの時のお前ら」
写真に写っていたのは、レディーの手を引いて踊るドラコの姿だった。魔法界の写真は動くようになっていて思い出が蘇りやすくていい。映像のようなものだ。
「これがどうかしたのか?」
「可愛い彼女だろ?」
「…どうだかな」
ランドールは飽きれたのか、ドラコの隣に腰を下ろし写真をじっと見つめながら言った。
「レディーは綺麗だ」
「洋服が大好きな傲慢な女だ」
「それにレディーは頭がいい」
「ズル賢さならスリザリントップだな」
「加えて優しい」
「お前に優しくしたことなんてあったのか?」
「そんなレディーはドラコが好きだ」
ランドールがそう言うとドラコは黙ってしまった。そして顔を逸らし、子どものように拗ねながら「でも今はポッターだ」と声を漏らした。
ランドールはそんなドラコの様子を見てクスクスと笑い始め、ソファに仰け反って更に笑った。
「アハハハ!!」
「何がおかしい」
「可愛い嫉妬だなドラコ。あり得ないのに」
ランドールは笑いすぎて涙が出た、と言いながら手で涙を拭った。ドラコはランドールをキッと睨んだが、そんなものは彼には効かない。
ランドールは懐かしむようにまた写真を見始めた。
「嫉妬は辛いよな」
「嫉妬じゃない」
「馬鹿言え。自分が一番分かってるくせに。俺はその嫉妬をもう3年も味わってるんだぞ凄いだろ」
「お前まだレディーを好きなのか」
「ずっと好きさ。今でもお前から奪えたらと思うよ」
「また愛の妙薬でも使うか?」
ランドールが苦虫を噛み潰したような顔をした。勘弁してくれよとでも言うようにドラコを見つめると、彼は不敵に笑っていた。
ようやくドラコらしい表情をするようになったなと、複雑ながら少し安心した。
「そういうのは止めたよ。正統にいこうと思ったから」
「正統ね。お前らしくもない」
「どうだドラコ、レディーを俺にくれる気はないか?」
「…ない」
「…天邪鬼」
ランドールが目を細めると、ドラコは黙れと言ってまた目を逸らしてしまった。
「…嫌だったんだ。僕が嫌いな相手と、仲良くされるのは」
「よく言うぜこの世の親族とレディー以外の人間は全員嫌っているような男が」
「それだけなのに、レディーに言ってはいけないことを言った」
「へぇ、なんて?浮気女とでも言ったのか?」
「選ばれし者がいいだろ…と」
ランドールは頭を抱えた。同時にため息を吐き、改めてソファへと寄りかかった。
ドラコは高飛車な性格をしているが、思ったよりも全然繊細な男だ。今でもレディーが自分の元から居なくなるのではないかと考えている。確かに四年生の時あんな騒動があったから分からないでもない、ないのだが…
「バッカだなぁ!」
「お前に言われたらおしまいだな」
「いいかドラコよく聞け、レディーは言わば高嶺の花だ。どんなイケメンであろうとレディーが興味なければあっさりとフられる。俺がいい例だ」
キメ顔をしてドラコを見つめると、ドラコは非常に嫌そうな顔をした。ランドールはイケメン枠に入る顔つきだが何にせよナルシストすぎる。だからフられるんだとドラコは思った。
「スリザリンでレディーを好きになったことのある男子の名前あげてやろうか」
「ナイト・ランドールだろ」
「そう。ランドールにアレックス、カルロス、ジェイク、レオン、マックス…」
ランドールがつらつらと名前を挙げていく。まさかそんなに人数がいるとは思わなかった。というか知らない名前までいるがどの学年だろうか。
「ついでに言っとくと、ザビニは2年の時5ヶ月だけ片思いしてた」
予想外だ。まさかあのザビニまでとは。そういえば2年の時「エジワールの好きな食べ物教えてくれ!」って言われた記憶がある。「グリーンピースだ」と嘘をついて後でレディーの方から怒鳴られたな。「私の一番嫌いな食べ物を教えたわね」と。
「それで、その高嶺の花が何なんだよ」
「ドラコ、お前はこういう時鈍くてダメだ。つまりだ、ドラコ凄いってこと。アノ、レディーが恋をしたんだ」
「貶すか褒めるかどっちかにしろよ」
「わかるかドラコ!アノ、レディーだぞ!鈍くて純粋なレディーが恋をしたのはお前だけなんだよ!!」
ランドールが真剣な表情をして言った。
指をさされ、ソファの肘掛へと追いやられる。
いい加減にイライラしてきたのかランドールは口早に言った。
「レディーが心を開いた男はドラコだけだった!そんなお前の嫉妬のせいでレディーがどれ程苦しんだか、よく考えるんだな!!今のドラコは嫌いだよ!三年生の時の方がずっとカッコよかったな!」
立ち上がってドラコにセリフを浴びせるなりランドールはその場から立ち去ってしまった。残されたドラコは彼から浴びせられた言葉をただ受け止めることしか出来ずにソファへともたれ込んだ。
「僕だって嫌いだ。今の自分は…」
(レディーを傷つける僕なんて)
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