レディーを追いかけてきたら天文台へとたどり着いた。マルフォイとの思い出の場所に自然に足を運んでしまうのは、それ程までに彼を愛しているからだろう。
グスグスと鼻をすする音が聞こえ、しゃがみこむレディーの肩を抱きしめると体がピクリと動いた。
「風邪ひくわ…」
「…」
レディーから反応はない。ただ聞こえるのは涙が落ちる音と、嗚咽のみだ。
「マルフォイは嫉妬しただけ。彼、まだ子どもなのよ」
「…わたし、ドラコのこと…た…たいちゃった」
「アレは叩いて正解。マルフォイはきっと言ったことを後悔してる。自分が言っちゃいけないことを言ったって」
レディーの恋人は背伸びをしすぎたのだ。嫉妬をするなんて15歳らしいと思う。まして自分の嫌いな相手と大好きな相手が仲良く手を握りあっていたらと考えると、彼も相当苦しんだはずだ。
きっとレディーもそれに気づいているのだ。だからと言ってマルフォイが言ったことを許せるわけでもなく、自分が叩いてしまったことも含め苦しくなって涙が溢れたのだろう。
でも私は何もできない。これからを決めるのは2人だ。
別れたわけではない。仲直りさえできれば、きっと二人は元に戻れる。
「私はあなたたち二人が大好きよレディー…」
私はただ、寒い冬の天文台で、体を丸めて涙を流す親友を抱きしめることしかできなかった。
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次の日の朝、オルガは窓から入ってきた日の光の眩しさに目をピクリと動かして、ゆっくりと開けた。そこにはカーテンを開けて、オルガに向かって微笑むレディーがいた。
珍しいことだ。レディーがオルガより早く起きるのは。
「おはようオルガ」
「おはよう、気分はどう?」
「そうね、やっと落ち着いたかな」
「じゃあ仲直りを…」
「それはノーよ」
レディーは口元だけ微笑んでいた。本当の笑顔じゃない、まだ苦しそうな表情だ。
「なぜ…」
「今すぐにでも仲直りしたいわ。でも、私はまだハリーと“仲良く”しなきゃならない。今仲直りしたところで、また同じことの繰り返しだもの」
レディーは可愛らしい服を掲げオルガの前まで歩み寄った。オルガは眉を寄せてそんな友人の姿をじっと見つめる。
「今は悩んでられないのよ。アンブリッジを早く追い出したいの。私たちの自由のために」
それに、あなたのためにも。と、掲げた洋服を抱きしめたレディーに、オルガは眉を寄せながら、やるせない表情になった。
「オルガ心配かけてゴメン。私頑張って貴女たちに魔法を教えるからね」
「そんなのいいわよ!」
急に声を上げたオルガに、レディーは思わず目を開いた。そんなレディーに、オルガはレディーが持っていた洋服を奪って、床に思い切りたたき付けた。
ルームメイト達がいなくてよかった。マルフォイの次はオルガと喧嘩だと思われてしまう。
「きっと分かってくれるわよ!ハリーのことを!」
レディーは微笑みながら首を横に振り、洋服を拾い上げ、両手で抱きかかえベッドへゆっくりと腰を下ろした。
「四年生の時、戦略結婚のためにドラコから離れた時があったでしょう?あの時わかったの。焦っちゃいけないって」
「でも…」
「オルガ、時間は最良の友よ。待っていれば、いずれそのタイミングがくる」
知らない人を見た気分だ。レディーは変わった。着実に大人になっている。でも心配なこともある。マルフォイと同じなのだ、背伸びをし過ぎている気がして。
「レディーはまるで大人の女性ね」
「そんなこと」
「いい事だと思う。いずれそうならなきゃ。でもレディー、もっと子供らしくていいのよ?」
「…そうね、自分でも背伸びはしていると思ってる。でも、そうでも考えなきゃ……やっていられないのよ」
レディーの手の甲に涙が落ちた。レディーの気丈さはうわべだけだった。本当は今すぐにでもマルフォイのところへ行きたいんだ。もういっそダンブルドア軍団などどうでもいいくらい、それくらい彼との蟠りを無くしたいに決まってる。
でもレディーはそんな思いをぐっとこらえて、待たなければと決意したのだ。
強い人になったと、素直に思った。
「レディーが背伸びする理由もわかる。でも、…でも私の前でなら泣いていいの」
私たち親友じゃない。と、オルガが続けると、溢れ出したようにレディーの瞳から涙が流れた。
レディーはその後長い間泣き続け、目の前にいない恋人の名前をずっと呼び続けたのだ。
(ねぇマルフォイ、彼女は決して強くないのよ)
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