スネイプの授業を憂鬱そうに受けていると、いきなりアンブリッジが入ってきた。
最近アンブリッジは自分の授業意外にも他の先生たちの授業の様子を見て紙に書き留めているようだ。
ノートと羽ペンを持って、今日もまたピンク色の服を着ている。
「熱心よねアン ブーリッジ先生は」
「何それ、アンブーって」
「豚の鳴き声を名前に入れたのよ」
「レディー天才」
「まぁ任せてよフクロウ試験では《優》をとってみせるわ」
レディーとオルガがコソコソ話をしている最中、アンブリッジはスネイプに質問を連続でしていた。生徒は黙ってその質問に耳を貸し、目も向けずに俯いている。
「貴方はもともと、闇の魔術に対する防衛術の授業に、申し込まれたのですってねぇ」
「さよう」
「でも上手くいかなかったのね」
「さよう」
アンブリッジはニコやかに言うが、スネイプは真顔で応えていた。レディーは、そんなスネイプに思わず噴き出してしまった。
そのうえ、闇の魔術に対する防衛術を、やらせてもらったことがないスネイプにとってはイジメのような質問だろう、と思うと余計に笑いが込み上げる。
笑いを懸命に堪えていると、目の前に座っているドラコは青い顔をしている。
「どうしたの?」
「レディー、う、後ろ」
「え?」
バシッ
スネイプはレディーの脳天を思い切り叩いた。勢いのまま机に『ガン』と頭を打ち付けたレディーは、ドラコからの「大丈夫か?」という問いに、腕を力いっぱいうごかして『×』をつくったまま動かなくなった。
オルガがそれを見て笑っていると、後ろに座るグリフィンドールのロン・ウィーズリーも同じようにスネイプに叩かれていて、彼女は更に笑った。
‐‐‐‐
また何日かした。アンブリッジに対し、レディーは愚痴を吐いていただけで、対向するのも『面倒臭い』という理由から、何も行動を起こさなくなっていたが、ある日の事件をきっかけにレディーの野心に火がついたのだ。
その日は雪がしんしんと積もるような寒い日だった。
そんな中のいつもの授業時、アンブリッジの授業を受けていると、後ろの席に座る親友の名が、アンブリッジに呼ばれた。
「オルガ・スターシップ、貴方この髪の色は一体何なのかしら?フフッ」
教室にいた生徒の視線は全てオルガに集まった。アンブリッジは、オルガの髪の中に含まれるピンク色の付け毛を掴んだ。
「これは何かしら?」
「・・・」
「付け毛よね?」
「はい…」
「これは違反よね?」
アンブリッジは、憎たらしい顔をオルガに近づけた。
オルガの付け毛は今に始まったことではない。入学当初から毎年色の違う付け毛を入れてくる子だ。アンブリッジが来て校則が厳しくなってから、オルガはお団子をして、地毛のなかに付け毛を入れ込んでやり過ごしていた。
しかしアンブリッジはその中から漏れる一本のピンク色の毛を見過ごさなかったのだ。
「このあと私の部屋に来なさい、フフッ」
オルガは返事をすることができず、黙って頷いた。隣に座っていたパンジーが大丈夫よ、と手を握っている。
前に座っていたレディーは怒りで羽ペンを真っ二つに折ってしまった。
「オルガ…」
「大丈夫レディー…ありがとう……」
震えるオルガから仕方なしに視線を戻そうとすると、ハリーポッター達が目に入った。苦々しい顔をして、オルガにまるで
“可哀相だ”
とでもいうような目で見ている。
(なにあの目は…)
‐‐‐‐
授業が終わり、アンブリッジがオルガを呼んだ。
「オルガ・スターシップ、来なさい」
「はい…」
「オルガ!」
レディーは歩きだす親友の腕掴んだ。オルガはその手を優しく包んで、「大丈夫」と、そう言ってアンブリッジの部屋に入っていってしまった。
ハリーポッターのオルガを見るあの目が、妙に引っ掛かる。
‐‐‐
オルガが帰ってきたのは、すぐだった。
アンブリッジの部屋の前で彼女を待っていると、暗い表情をしながら足取り重そうに歩んでくる。
「オルガ!大丈夫?」
「レディー、待っててくれたのね。ええ、大丈夫よ、全然…全然平気」
心配するレディーに苦笑いをしたオルガは自分の背中にサッと左手を隠した。
怪しく思いその手をぐいっと引っ張る。
レディーの顔は青ざめた。信じられないものを見たように、手が震えている。
「な、何よこれ」
「…」
俯くオルガの手の平には
‐私は校則を破ってはいけない‐
と血の文字が書かれていた。赤く腫れ上がり酷く痛そうだ。
「許せないわ……」
「レディー!私は大丈夫だから」
「そういう問題じゃない!これはもう虐待だわ!!」
レディーはハッと記憶を巡らせた。ずいぶんと前、アンブリッジとマクゴナガルが、大広間の前の階段で言い争いをしていた時、マクゴナガルは言っていた。
「私の生徒に罰則を与えるのでしたら、所定のやり方をしてもらいたいと申しているのです」
「あら、愚かにも私、私の権限に口を出したように聞こえましたけど。ミネルバ」
「とんでもないドローレス、問題は残酷なやり方です」
「だからハリーポッターは、あんな表情をしたんだわ…もう自分が同じ目にあっていたから…」
「え…?」
ハリーはオルガを可哀相に思ったのだろう、自分も同じ痛みを味わったのだから。
レディーは怒りを抑え、杖を取った。
「オルガ、とにかく傷を癒しましょう、エピスキー(癒えよ」
そう言うと、オルガの手の甲の傷は、見る見るうちに癒えていった。
「ありがとう、レディー」
「いいえ、いいわ…よ…?」
レディーは言葉を途切れさせながら外を見た。オルガも何かと思い同じ方向を見つめる。
そこには、雪の中を足速に歩くハリー達の姿があったのだった。
(どこへ行くのかしら?)
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