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またある日の昼休み。


アンブリッジが来てから、大広間の扉横の壁に沢山の校則が書かれていたのは知っていたが、今日フィルチが新たにそれを追加した。

それを見上げたレディーとオルガは頬に手を当ててムンクの叫びの如く大声を上げ、周囲にいた生徒の耳を抑えさせた。


・授業中の音楽プレイヤーは禁止
・お喋りも禁止
・身なりと態度を正すこと


「おい!僕らの耳を潰す気かよ!」


グリフィンドールのディーンが迷惑そうに二人に言った。レディーはディーンにゆっくりと近寄り、首もとを掴んで不条理にも言い放った。


「あんたわかってる?この規則の意味が」

「うわっ…エジワールの奴だったのか……」


ディーンは冷や汗をかいた。煩かったため注意をした相手はスリザリンで、ましてマルフォイの彼女。
レディーを知らないものは同学年ではそういない。“目立つ”上、合同授業のおおいグリフィンドールとスリザリンなら尚更だ。



「私はエジワールじゃないランペル!あぁそんなのはいいわ。見なさい!!」



ディーンが恐る恐る指差された方向へと視線を向ける。今日飾られた校則を読み上げろとレディーに促され、小声で読み始めた。



「授業中の音楽プレイヤーは禁止…お、お喋りも禁止…身なりと態度を正すこ…「そーう!それ!」

「お、お前とスターシップはいつでも身なりと態度守ってないだろ…!」


ディーンの隣にいたシェーマスが割り込み、離してやれよとレディーの肩に手を当てた。レディーは離すどころかさらに揺さぶりを加え、ディーンを白目にさせている。



「それはダンブルドア校長が作った校則の時でしょ!!」

「ちょっとレディー落ち着いて!」

「でも!今は!あの!ピンクガーゴイル豚が校則よ!!」

「おいエジワール、じゃなかったランペル!勘弁してくれよディーンが死んじまう!」



ディーンはもう完全に白目だ。普段ニコニコ笑っている彼からは検討が付かないほど顔が青ざめている。
レディーはディーンをゆっくりと離し、今度はシェーマスへと歩み寄った。シェーマスはレディーが前進する度に後退し、首もとを掴まれないよう距離を測っている。



「つまりどういうことかわかるシェーマス!」

「わ、わかるわけ無いだろ!」

「あのピンク豚が校則となると!もう校則は違反できないのよ!」



レディーは自分の頭を抱えミュージカルのようにその場で崩れ落ちた。周りの生徒は何だなんだと野次馬のようにあつまり、周りには円ができている。
オルガは「冗談じゃない」と思いながら、裏切って当初からいなかったフリをしながら周りの生徒に溶け込んでいた。

しかしレディーも学習をしたらしい。以前はアンブリッジの前でも校則違反し、さらにそれに反発していたが、ドラコに止めてくれと言われたこともあってかアンブリッジの前では規則を守るようになっていたのだ。

“また手を挙げられては困るから。”

そもそも校則を最初から守ればいい話だろ、ととあるレイブンクローの女子生徒は思った。



「わかるシェーマスにディーン!これはただ事じゃないのよ!」

「「知らねーよ!!」」



ディーンはいつのまにか起き上がっていた。そしてその言葉をシェーマスと共に最後に言い残し、レディーの前からそれはもう素晴らしいスピードで逃げ出した。
ある生徒はこういった。クディッチのシーカー並みだったと。



「全くこれだからグリフィンドールの男は…」

「何処の寮でも同じだと思うよ」

「ルーナ!」



こんにちは、と言いながらルーナがレディーに歩み寄った。オルガはあきれ返りながら二人に近寄ると、周囲の野次馬達は終わった終わったと言いながら散らばっていく。



「レディー、とっても怖かったもん」

「え?私が?」

「うン。まるで怒ったトロールみたいだったかな」



ブッと、オルガが口を押さえながら吹き出した。レディーは冷や汗をかき、顔を青くしながらその場から猛ダッシュで逃げた。
大概、トイレに鏡でも見に行ったのだろうと、オルガはため息をついて笑っている。



「トロールは斬新。たぶんレディー初めて言われた言葉よ」

「レディーはいつもあぁなの?」

「いつもではないけど、たまーにあぁなる。服が絡むとどうもね」

「ドラコ・マルフォイは飽きないだろうね」

「えぇ、それは絶対に言えてる。私もレディーと居るようになってから飽きたことないもの。でも…」

「でも?」

「マルフォイは私とは別ね、レディーの全てが愛しくてしょうがないのよ。私はトロールの時の友人は勘弁よ」

「愛だね」



ルーナがニコッと微笑むと、オルガも返すように微笑んだ。ホントね、と言いながらレディーの出て行った廊下を見て二人でまた笑いあった。



---


その頃のレディーはと言えば、嘆きのマートルのいるトイレまで来ていた。相変わらず水浸しのそこは、人が一人もいない。いるのは幽霊のマートルだけだ。


「私はトロールじゃない私はトロールじゃない私はトロールじゃない」


呪文のように唱えながら鏡を見ると、いつもの自分の顔だ。ホッと一息ついて水道に背中をつけた。
帰ろうとしてきた時だ、トイレの個室がバシャ!と音を立てて水を吹き出した。


「マートル?」

「悲劇のヒロイン、また来たのね」

「今回は手紙持ってるわけじゃないわよ」


それは残念。と言いながらマートルはレディーへと近寄った。懐かしむような顔をしながらレディーの頬を撫でる。
幽霊なので撫でられた感触などはないが、何だか変な気分だ。



「な、何よ」

「戻ってこられたのね。サリア・エジワールは元気だった?」



そういえばマートルにあったのは四年生のダンスパーティ前が最後だ。あの時マートルに帰れと言われてなかったら今どうなっていたかわからない。
ダンスパーティのことを思い出し、思いついた人物がいる。

ロデオだ。

父親であるロデオと、サリアの関係をマートルは知っている。



「ねぇマートル。あなたがあの時言っていた言葉の意味がわかったわ。サリアの人生を壊した男、それはロデオね」

「あら、誰から聞いたの?つまらないの」

「ルシウスさんよ。ルシウス・マルフォイ」

「あぁ、あの長髪の男ね。そうよ、ロデオ・ハウエル。とってもカッコいい人だった。あんたも女じゃなくて、男に生まれてたらよかったのに」



マートルがレディーの周りを一周周り、瞳を覗き込んだ。クスクス笑いながらマートルは続ける。



「そっくりで驚いたわ。その顔だとどうしてサリアがあんたを嫌っていたか、わかったみたいね」

「まぁね。いろいろ知れたわ。でもあなたに聞きたいことが」

「質問には一つしか答えないわ。つまらないから」

「言ったわねマートル、残念だけど質問は一つなの。じゃあ言うわ」



マートルが眉を寄せ、つまらなそうに顔を背けた。レディーはルシウスから聞いた話を思い返し、慎重に質問をした。



「なぜ、ロデオ・ハウエルは女子トイレであるここに来たかわかる?」

「…」



マートルはいつもの様子ではなかった。酷くくらい表情で宙に浮かんでいる。レディーはまずい質問だったのかと、マートルに近寄った。



「あの、マートル?」

「ここには秘密の部屋の入り口がある。ロデオはこの場所をなぜか知っていた。パーセルマウスじゃないから中へ入ることはできなかったけど」

「秘密の部屋って…ロデオは何をしに!?」

「ここまで!質問は一つだったはずよ!」




マートルはトイレの中に飛び込みをして消えてしまった。一人になったレディーは変わらず水道に腰を付けていたが、その表情は暗い。



「秘密の部屋って…」



秘密の部屋は二年生の時ハリーが疑われていた話のことだ。ミセスノリスが石化され、スリザリンの継承者によって秘密の部屋が開かれたのではないか?と、学校中で大騒ぎになっていた。
秘密の部屋に何があるかは生徒には聞かされていないが、先生たちが教えられないくらい不味いものがあることは間違いない。

ロデオの性格を考えるとただの興味本位かもしれないが。


(ねぇロデオ、あなた何しに来たの?)


---


マートルのいるトイレからの帰り道、廊下でブロンドの髪の彼を見つけた。声を掛けようとすると、彼の隣にはパンジーではない女の子。
でもスリザリンの子だ。見たことがある。一年下の、確か名前は。


「アステリア・グリーングラス…」



声に気がついたのかドラコとアステリアは振り向いた。そういえばアステリアは純血だったっけ、姉のダフネとは同学年で互いに仲がいいが、妹とは関わりはなかったはずだ。


「それじゃあ」

「あぁ、ありがとう。たすかったよアステリア」


仲よさそうに挨拶を交わし、アステリアは何処かへ行ってしまった。ドラコは佇むレディーの元へ歩み寄った。



「ずいぶん仲よさそうね。意外だった。ドラコ後輩と関わりあったのね」

「あぁ、ちょっとな」

「ちょっと、ね」

「なんだレディー、嫉妬しているのか?」



挑発するようにドラコが口角を上げ、レディーの頬に触れた。むっとしたレディーは彼の手を振って少し後ろに下がった。



「嫉妬!?まさか!冗談!」



どう考えても動揺している。目線はどこに行っているかわからない上、動きは挙動不振だ。ドラコにはそれが見え見えだったようで口に手を当ててクスリと笑った。



「安心しろ、僕はレディーしか好きじゃないよ」

「安心も何も、嫉妬なんかしてないってば!」

「いやしてるね。だって僕がアステリアといる時のレディーの顔、酷く苦しそうだった」

「……ちょっとって何よ…」

「アステリアは天文学が得意なんだ」

「……だったら何なのよ」

「わからないか?流星群の日を聞いてたんだ。お前と、また見に行けたらと思って」



好きだろ?星。

そう続けた彼は私の手を握りしめた。なんだか泣きそうになってしまった。至近距離にいる彼の顔を直視出来ない。目があったら涙が溢れてしまいそうだ。

ゆっくりと顔を上げると、ドラコは触れるだけのキスを落とした。



「行くだろ?星を見に」

「もちろん」

「よかった。アステリアとの会話は無駄じゃなかったな」



レディーが嫉妬しているところも見れたし。という言葉は声には出さず、ドラコの胸の中にとどまった。


目の前にいる自分よりも小さな彼女は、顔を赤くしながら微笑んでくれた。



(君の嫉妬は可愛い)

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