あれからさらに5日経った。今日で20日。
ホグワーツではクリスマスの雰囲気が顕著になり、みなプレゼントや、ダンスパーティの日のことを話すことに胸を躍らせている。
そんな様子に疲れたドラコは、授業以外では部屋にこもるようになっていた。レディーがいないのにダンスパーティの話など耳に入れたら今にも泣きそうな気分になってしまいそうだったからだ。
その日の夜になった。周りの生徒たちは殆ど寝静まり帰った頃、夕方頃から今まで寝てしまっていたドラコは風呂に入ろうと談話室の方へと向かっていた。
そんな談話室まであと数歩となったところで、人の声がした。もうなかなかいい時間だ皆自室にいてもいいはず。そして、聞き覚えのある声。
ドラコは隠れながらそっと耳を傾けた。
「どうしようランドール」
「どうしようもないだろ」
「だってあと4日なのよ!?」
「シッ、声が大きいぞオルガ」
「スターシップにランドール?どうしてこんな時間に二人で…」
柱に隠れながら話を聞き続けた。一体どういうことだこんな夜に、あと4日?ダンスパーティの日に何かあるっていうのか?と頭を悩ませる。
「もしマルフォイが本当のことを知ったら」
「でもドラコは真実を知る権利もあるんだ…」
「そんなこと言ったら彼大暴れするわよ!?」
どういうことだ?僕が暴れる?
意味深過ぎる二人の会話にドラコは眉を寄せ、顔を強張らせた。
オルガが大きなため息を吐いた後、泣きそうな声になりながらつぶやいた。
「レディーが結婚するだなんて」
ドラコはもう柱の影にはいなかった。オルガとランドールの前に現れ、信じられないといった顔をしながらポツポツと言葉を漏らした。
なんだそれ
僕がいるのに?
なぜそのことを知っている?
僕は知らないのに
「スターシップさっきの話詳しく聞かせろ」
ドラコは二人を睨んだ。なぜ今まで言わなかったのかと、先ほどの言葉はどういうことなのかと。
突然現れたドラコに、オルガとランドールは目を開かせた。
「なんでマルフォイがここに…」
「そんなことはどうでもいい。さっきから結婚するとかどうとか、あれは一体どういうことか説明してもらうぞ」
「あ……」
青い顔をするオルガの肩にランドールは優しく手を置いた。オルガと顔を見合わせ、頷いている。
「もう言うしかないさ、隠し事は止めよう、ドラコはやっぱりこのことを知る権利がある」
ランドールは真剣な顔でドラコを見つめた。ドラコは言ってくれと言い、ランドールから発せられる言葉を待った。
「ドラコには酷な話になる…」
アロマから聞いた話を全てすると、ドラコは俯いて黙ってしまった。拳を固めた後、ソファへと力無く座り込み頭を抱えた。
オルガはそんなドラコの元へ歩み寄りソファに手を置いた。
「マルフォイ、これは戦略結婚よレディーは貴方のことをまだ」
「わかってる!」
大きな声を出したドラコに、オルガは驚いて目をギュッと閉じた。
「わかっているんだ。レディーから聞いてた。母親が酷いことは。それにしたってあまりにも…」
「ドラコ、お前…」
ランドールは俯くドラコの顔からこぼれ落ちたものを見逃さなかった。
瞳からポタポタと落ちる涙は止まることを知らない。ランドールはソファーに腰を抜かしたドラコの隣に座った。
オルガはそんな二人の背中をただ見つめることしか出来なかった。
「レディー…」
「大丈夫さ、レディーはきっと帰ってくる。俺とお前が惚れた女だぜ?だからさ、泣くのは止めてくれよドラコ」
「うるさい…わかってる」
「あいつなら結婚式をぶっ壊して帰ってくるよ」
ランドールは微笑みかけてドラコの肩へと腕を回した。ドラコはそんな腕を叩き落とし「やめろ」と言っている。
オルガはマルフォイの前に周り、語りかけるように話し始めた。
「レディーはね、部屋で寝るときいつも貴方の話しをするわ。今日何があった…とか、明日ドラコと出かけるの…とかね。そんな子がいきなり結婚なんてするわけないわ。今だってきっとマルフォイを思ってる」
「スターシップ…」
「レディーは今戦ってるわ、私にはわかるの。今私たちに出来ることは、あの子が帰ってくることを信じるだけよ」
「あぁ…そうだな、僕も信じるさ」
(今はレディーを信じよう)
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その次の日のことだ。ドラコたちの心配をよそにレディーはルーファスからの特訓を受け、魔法レベルは相当のものになっていた。
練習できるのはサリアが仕事に行っている間のみ、屋敷しもべのカロンは黙っていてくれている。
「さぁレディー、昨日のおさらいだ。呪文を」
「エクスペクト・パトローナム(守護霊よ来たれ)」
レディーは守護霊を呼び出す魔法を教わっていた。杖からは白い線が飛び出し、美しい狐が現れ宙を舞っている。
ルーファスの周りを走った狐はスッと姿を消し、その様子を見た彼は拍手をした。
「よくできました!もう完璧だ」
「あなたのおかげよルーファス」
「いや、君の努力の賜物さ。それにしても守護霊が狐とは」
「前ホグワーツの先生に動物にされた時狐になったのよ。だから守護霊もそんな気がしてたんだけど、本当に狐だった」
レディーはクスクスと笑った。体罰で動物にされるってキミどんな悪いことをしたんだい?とルーファスは笑っている。
そんなレディーとルーファスの間の敬語は無くなっていた。理由はルーファスがよそよそしいからと。レディーも最初は否定していたが、練習をしていくうちに馴れてしまったようだ。
「レディーはもうパトローナスの練習はいらないね」
「じゃあなんの練習をすればいいの?防御の呪文も攻撃の呪文も、殆ど習ったわ」
「全部なわけないさ、教えたくても教えられなかった呪文がある。わかるかい?」
レディーは小さな声でその質問に答えた。
「許されざる呪文?」
「そう、許されざる呪文は三つ。磔の呪い、クルーシオ。相手に、死の方がましだと思わせるほどの痛みを与える呪いだ」
「あールーファス、実は授業で全て習ったの…」
ルーファスは信じられないといった表情をしている。一体誰がそんなことをと、知っている教授陣の顔を思い浮かべる。
「まさかスネイプが闇の魔術に対する防衛術を?」
「いいえ、アラスタームーディー先生よ」
ムーディ?闇祓いの?まさか彼がホグワーツで教授をしているとは。ダンブルドアが呼んだのか。彼は狂っているなんて呼ばれているがキャリアは相当なものだ。許されざる呪文を教えることなど簡単だろう。しかし…
ルーファスが難しい顔をして物思いにふけているのでレディーは気を紛らわそうと
「体罰で動物にしたのもその先生!」
と笑った。
「ムーディが体罰で動物に?」
とてもじゃないが信じられない。彼は確かに狂っているがそういう行為を生徒にはしない。ムーディは僕が知らないうちに人が変わってしまったのか?
「…ファス、ルーファス、ルーファス!!」
「うわぁ!なに!」
目の前にレディーがいる。どうしたのよ、と言いながら大声を出していた。取り乱したように叫んだルーファスは咳払いをした。
「ごめんごめん、ちょっと考え事。習ったならいいんだ。それじゃあこれまでの復習をしながら、一つ一つの呪文の威力を高めていこう」
彼女がオーケーと元気よく首を縦に振ったが、ルーファスの頭の中はムーディのことでいっぱいいっぱいだった。
(ホグワーツで何が起きている?)
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