レディーがしぶしぶ自宅用のドレスに着替えている頃、家にはランペル家の父親と息子が来ていた。
髭を生やした男が玄関をノックすると屋敷しもべのカロンがサリアの元へと案内した。
大きな扉を開けて部屋の中へ入り、歓迎したサリアの元へと歩み寄る。
「これは遥々遠くからようこそお越し下さいましたわ。さぁどうぞ座ってください」
「はじめましてサリアさん、レディーさんはどこですか?」
「これルーファス、来て早々失礼だぞ」
ルーファスはサリアに握手を求めるなりレディーの居場所を尋ねた。父親は「楽しみにしているんですな」とサリアに笑いかける。
微笑むルーファスにサリアは上品に笑って応えた。
「いいえ、いいんですのよ。レディーも喜びますわ。ところでレディーはどうしたのカロン?」
「それが…部屋に篭りっぱなしで」
おどおどするカロンをサリアはキッと睨みつけて。ルーファスは察したかのようにサリアに話しかけた。
「誠に勝手ながら、お嬢さんの部屋に行ってもよろしいでしょうか?」
一度驚いたサリアは「ええどうぞ」といい、カロンに案内させ、ルーファスをレディーの部屋へと連れて行った。
屋敷しもべと二人きりになったルーファスはおどけた調子でこう呟いたのだ。
「あの女は作り笑顔をするのが下手くそだね、屋敷しもべさん」
‐‐‐‐‐‐‐‐‐
レディーは一度潜ったベッドから出て、また外を見つめていた。ドレスはぐしゃぐしゃだが知らないといった様子で俯いている。
突然コンコンと部屋のドアが鳴りビクッと反応した。
「誰?カロン?」
部屋の外にはレディーの声が聞こえていた。屋敷しもべのカロンが返事をする前にルーファスは前に躍り出てレディーに語りかける。
「はじめましてレディー、僕の名はルーファス。ここを開けてくれないか?」
ドア越しに聞こえる声にレディーは戸惑った。あのクディッチワールドカップの時に見た男が今扉の外にいる。
レディーの体は不安から固まってしまっていた。
ルーファスはレディーの様子を感じ取ったのか、ニコリと笑い周囲を見渡しながら扉に向かって言った。
「んーそうだな。君を安心させる魔法のような言葉を言うから、無事に安心できたら開けてくれないか?」
「安心?」
レディーは思わず反応してしまった。まずいと思い口に手を置く。
「そう。これは僕たちの合言葉だ」
「…」
「ホグワーツへ帰ろう」
レディーは目を開かせた。頭の中がフル回転し、扉の向こう側にいる男が何を考えているかを必死に理解しようとする。
しかしレディーの体は頭で考えるよりも先に動いていた。
扉をゆっくりと開け、恐る恐る上を見上げる。そこにいたのはドラコよりも背の高い男の姿だった。
「やぁレディー。やっと顔が見れたね」
安心させるようにニコリと笑ったルーファスは、レディーに手を差し出し握手を求めた。
大きな手だ。ルーファスはレディーよりも8つ上だとカロンから聞いた。
ホグワーツにいた時はスリザリンの優秀な生徒だったと。そんな男がレディーを安心させると言って放った言葉は『ホグワーツへ帰ろう』
どういうことだとレディーは頭を悩ませた。
カロンも付き添い部屋に入ることになったルーファスはレディーの部屋を見渡した。
「キミの部屋は洋服が多いんだね」
アハハと笑う。レディーは未だ状況が飲み込めず距離を保ちながら様子を伺っていた。
「大丈夫だよ襲いに来たわけじゃない。さっきも言っただろ?合言葉は『ホグワーツへ帰ろう』だと」
「一体どういう…」
「まずは自己紹介だ。必要ないかもしれないけどね」
「…」
「僕はルーファス・ランペル、母親に除け者扱いされている可哀想なお姫様の婚約者さ」
ルーファスはソファに座り込みレディーを見つめた。屋敷しもべは紅茶を用意しルーファスの前に置いている。
そんな様子を見ながらレディーは眉を寄せて対抗した。
「来て頂いて申し訳ありませんが私は結婚しませんよ…」
「あーレディー、さっきも言っただろ?合言葉は?」
「さっきからずっと気になっていたんですが…その合言葉とは一体何なんです?気休めで言っているならやめて下さい」
ルーファスは大きくため息をついて手を頭にやった。ソファの背もたれに仰け反り、全くとぼやいている。
「気休め?とんでもない。女の子相手に調子のいい嘘なんかつかないよ。簡単な話さ、この結婚を潰して君をホグワーツへ返す」
「え!?」
「な?簡単だろ?」
「どうやって…」
「それはこれから考える」
ルーファスは人差し指を振りながらレディーに微笑みかけた。レディーは唖然としながらルーファスを見てますます混乱する頭を抱えている。
「まずおかしな話しじゃないか。ただスリザリンに産まれただけで人格を無視して母親の好きなように戦略結婚だなんてどうかしているよ。それに君には恋人がいるじゃないか。僕はその恋人から恨まれたくないんでね。長生きしたいし」
「どうして恋人のことを…」
「クディッチワールドカップで見たよ。あれ、隣にいたのマルフォイ家の息子だろ?確か名前は…」
「ドラコ…」
「そうそう、それだ!彼の髪色綺麗だよね!…あれ?レディー?」
ルーファスは思わず目を細めた。まるで可哀想だと思うような表情で。
レディーは泣いていたのだ。嗚咽を鳴らしながら床に涙がポタポタとこぼれ落ちていく。
「ドラコ…っ」
愛しくて、会えない苦しさで、悲しくなって
私はその場で泣き崩れてしまったの。
(あなたに会いたい)
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