グリフィンドールからの帰り道を無言のまま歩く。オルガもランドールも肩を落とし、ドラコになんと言おうか頭を悩ませていた。
寮へ戻ると暖炉の前にドラコが座っており、二人を見るなり立ち上がって様子はどうか尋ねてきた。
「アロマ・エジワールは本当に何も言わなかったのか?」
「さっきから言ってるでしょうマルフォイ、アロマは何も言ってくれなかったわ」
「…そうか、なら僕は部屋に戻る」
そう言いながらドラコは顔を背け自室へと戻っていった、残されたランドールとオルガはドラコがいなくなったことを確認し、ため息をついた。
「ランドール、私あんなマルフォイ見たくないわ」
頭を抱えるオルガはしゃがみこみ膝を抱えた。ドラコが消えていった部屋への階段を見ながらランドールも呟く。
「…ドラコに真実なんて伝えられない」
同じように落ち込むランドールは、腹いせに手元にあった魔法新聞を暖炉へと投げ捨てた。
新聞が燃えて灰になっていく。
メラメラと燃える炎に包まれた新聞に写っていたのは、魔法大臣と一緒にいるルーファスの姿だった。
‐‐‐‐‐‐‐‐
「レディーお嬢様、今日はランペル家の方が来ますので、ドレスにお着替え下さい」
「嫌」
屋敷しもべに言われた言葉をレディーは一言で返した。部屋の窓辺に座り、外を見て一歩も動かずにいる。
窓の外で自由に飛ぶ鳥を見て、レディーは目を細め言った。
「ねぇカロン、私もあんな風に自由になれるかしら。お母様に縛られずに、大切な人と一緒に鳥のように飛べるかしら」
「お嬢様・・・」
『カロン』と呼ばれた屋敷しもべは、窓に手を当てるレディーにゆっくりと近づく。レディーはそのまま外を見ていたが耳だけカロンに傾けた。
「私にはわかりません、しかし自由になる道は一つではありません。ルーファス様はきっとその道を作って下さいます」
優しく言うカロンにレディーは振り返り、首を横に振って微笑みながら応えた。
「私には一つだけなのよ。その道を作ってくれるのは、ドラコただ一人なの」
レディーはまた顔を窓に向け、それ以上は何も言わなかった。カロンは複雑は思いを胸に、失礼致しましたと言い、部屋の扉に手をかけた。
「お嬢様、カロンめは…お嬢様の幸せを願っていますよ」
「ありがとう。でもね、私は結婚なんてできない。たとえホグワーツへ二度と行くことが出来なくても、ドラコを裏切るなんて出来ないのよ」
レディーの真剣な目を見て、何も言えなくなったカロンは部屋から出て行った。
カロンが部屋から出たのを確認した。レディーは窓枠から降り、引き出しからペンを持って手紙を書きだした。
ドラコへ
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私、二度とホグワーツに
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戻れなくなっちゃったわ
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でもドラコのこと愛して
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いるから、例え目の前が
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暗闇でも負けない
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私は大丈夫だから
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心配しないでね
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オルガにもよろしく言って
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レディー
レディーは窓から梟を飛ばした。綺麗な羽を持った梟が優雅に飛んでいく姿をみて安心し、ホッと一息ついたレディーは窓から離れた。
しかし、遠くまで飛んだ梟は、途中急降下するように落ちていく。
「お嬢様、申し訳ございません。奥様に逆らうことの出来ぬカロンをどうかお許し下さい」
カロンは魔法で梟を呼び、手紙を奪いその場で燃やしていたのだ。今までの手紙も、全て涙を流しながら。
カロンは昨日の晩、サリアに何度も言い聞かされていた。
「いいことカロン、レディーの部屋から梟が飛んだら迷わずに止めなさい。それからレディーのもとへ届いた手紙は全て燃やしなさい」
「し、しかし奥様、それではお嬢様が可哀相ではありませんか?」
「カロン、お前誰に口を聞いているの?あの子は家の異端児よ、ただ一人生まれてしまったスリザリンの生徒なんて。いつまでも家に置いてられない」
「寮など関係ないと思います!レディーお嬢様は大変優秀だとホグワーツからの手紙で存じ上げております!」
「うるさいわよカロン。成績など関係ないの。あの瞳と髪の毛を見ているだけで…。それに、もし私の言うことが聞けないなら、カロンの大好きなレディーを精神的にもっと痛め付けるからそのつもりでいなさい」
「……わかりました」
カロンはあの時レディーを守るにはサリアに従うしかなかった。
目を閉じて思い出す記憶。
今から8年前、レディーが6歳の幼い頃のことだ。
「カロン、これをあげるわ」
小さなレディーが突然カロンに差し出したのは、屋敷しもべサイズの小さな洋服だった。綺麗な生地の服を上下に振っている。
カロンは顔を横に振り否定をした。
「お嬢様いけません、屋敷しもべは主人から衣服を与えられる事は、私たちにとって「解雇」を意味するのです」
「そうなの?」
幼いレディーは訳が分からず首を傾げる。解雇ってなに?とボヤく。
「申し訳ありませんが頂けません」
カロンの言葉に口を曲げたレディーは反抗をするように服を握りしめて言った。
「カロンは辛くないの?毎日お洗濯したり、お母様のお手伝いしたり」
「辛いものなどありません!私は幸せですよ」
「嘘よ!こんなにボロボロの服を着てオシャレも出来ないし、手だってこんなに荒れてるわ」
カロンの手を取りレディーは声を上げた。たしかに屋敷しもべの服はボロボロで薄汚く、不衛生だ。
そんなレディーにカロンは笑顔を向けた。
「お嬢様はお優しいですね」
「そんなことないわ、でも、私がもっと大きくなって、お母様よりも強くなれたら。カロンを幸せに導いてあげるわね」
「お嬢様…」
「約束よ!」
あの時お嬢様は私と指切りをして下さった。私を幸せにしてくれると。
お嬢様はスリザリンの気質を持って生まれ、奥様から蔑まされて生きてきた。
妹が愛される姿を見て傷ついたところを何度も見ている。
それでもお嬢様は自分より私を幸せにしてくれるといった。こんなにお優しいから、きっとお嬢様の未来は明るいはずと信じたい。
それを叶えるのがルーファス様かわからないが、お嬢様には本当に好きなお方と結婚して幸せになってもらいたい。
カロンは帰る途中ずっとレディーのことを考えていた。ぼんやりぼんやり、昔のことを思い出しながら。
燃えた手紙の灰を持って。
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