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「ねぇちょっとあなた聞いているの!?」


霞む視界の中で、緑のローブを着た女が私に向かって叫んでいる。ちょっとやめてよ、だって私、今が人生で一番最悪な時なの。

家を出るまでは、
駅のホームまでは、
新しい学校に胸をときめかせていた可愛くて美人な女の子だったのに。電車に乗ってからろくなことがない。金髪の男には喧嘩を売られるし、学校にきてからはおばあちゃんに怒られ、カエルのせいでひっくり返った。
そしてトドメはあれ。何よスリザリンって。


「あのおばあちゃんの顔見た?」

「は?」

「この世の終わりよ。もう家へ帰れないわ」


顔を覆っておいおい泣いてみせる。大広間で寮を告げられ、今ここは、スリザリンの寮の中だ。暖炉が部屋を暖め、ほとんどの一年生が自分の部屋で荷物の整理をしている。
しかしアリアは談話室のソファーから動かなかった。天井を見上げ、動く壁の絵に白目を向けて項垂れている。
声をかけてくれたのは同じ1年生の女生徒だった。名前は知らない。ボブヘアーの顔のいい女の子だ。

大広間では寮が発表されてからの記憶が無い。チキンすら食べずに項垂れていたのだから、他の子がどの寮に入ったかなんて知る由もない。この子はだれだ。


「何のことかさっぱりわからないけど、とにかく部屋へ行きましょうよ。荷解きしてないんでしょ?私たち同じ部屋なの!よろしく」

「スリザリンなのに貴方性格がいいのね」

「あなたと同じよ。レイブンクローだと思ってたの」

「気が合うわね。名前は?」

「ステファニー。ステファニー・スイフトよ。あなたは?」


ステファニーと名乗った少女は手を出して握手を求めた。同じように手を出しながら、アリア・マクゴナガルよと握り返す。


「よろしくねアリア」

「こちらこそ」



ホグワーツにきてやっとまともな人に会えたと胸を撫で下ろすと、談話室に甘い匂いが漂った。大柄な1年生の2人が両手いっぱいにお菓子を抱えている。その後ろには金髪のあいつもいた。


「おやおやレイブンクローに入り損ねた迷子ちゃんじゃないか」


迷子ちゃん。キングス・クロス駅で迷子になったアリアのことを言っているのだろう。マルフォイは挑発するように顔を近づけてくる。はわはわするステファニーを横目に、目を細くして睨むアリアはニヤリと笑い、姿勢を正して手を顔に寄せた。日本式ぶりっ子ポーズだ。


「な、何だよ」

「もしかして、マルフォイって私のこと」


すきなの?


可愛い顔をした女が、指で髪をくるんといじる。
上目遣いで、お淑やかに。それだけで男は虜になるとマグルの雑誌に書いてあった。私の知識に間違いはない。


「…」

「だから私にそんなにいじわるするの?」


この私に惚れさせてこっぴどく振ってやろう。そう考えただけだ。幼少期には近所の男の子たちを魅了した顔。少し悲しげに顔を俯かせれば、もう完璧だ。
マルフォイは暫く瞬きした後、口を開いた。


「そうか…気づかなかった。すまなかったなマクゴナガル…いや、アリア」

「は?」


マルフォイがオールバックの髪の毛をさらに撫で付けるように後ろにやった。ふぅ仕方ないなと言うように。全く困るなと言うように。

何を言っている…何が仕方ない…さっさと「そうです好きです可愛い顔にイチコロです」と言ってみろマルフォイ…


「お前、僕の事が好きなんだろう。照れ隠しはよせ。ただ、すまないがカエルを顔に付ける女は願い下げでね。諦めてくれないか」

「え」


ステファニーは後に言う、アリアの顔が凄いことになっていたと。

噂というのは恐ろしいもので、入学初日にあのマルフォイ家の一人息子に告白をして振られた女と、グリフィンドールの生徒に指を刺されて笑われることになるとは、この時のアリアはまだ知らない。



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