ハグリッドという巨大な男に運ばれる。肩に担がれ、所謂ファイヤーマンズキャリーというやつだ。ホグワーツの制服のスカートは長いからまぁ中身が見えることはないし、ちょっと揺れまくる車と思えばいい。ハグリッドに運ばれながらホグワーツを見渡した。グルングルン階段が動いて、ゴーストが飛んでいる。何人かのゴーストに驚かされて、頭に来たので日本式「南無阿弥陀仏」を唱えたら、何だそれと言いながらアホ呼ばわりされて、これもまた私の怒りを買った。
「お前さんマクゴナガル先生のお孫様だったんだな」
「おばあちゃんってそんなに凄いんだ。それよりハグリッド、あのゴーストたち引っぱたいてよ」
「ゴーストを叩くなんて馬鹿げた発想をする奴はそういないぞ。ウィーズリーの双子くらいなもんだ」
「だって見た?私に向かってベロベロベーってやったわよ。この美少女に」
ハグリッドがアハハと笑いながら動く階段に足を運んでいく。壁画も移動していてゴーストハウスだ。それにしても最悪の日だ。マルフォイとかいう奴にはコケにされ、おばあちゃんにこっぴどく怒られ、挙句ゴーストには見世物扱い。
「お金取るわよあんたたち!!!」
腕を振り上げると流石にゴーストも散っていった。弱虫め。フンと鼻で笑うと、ハグリッドが弱虫だからいなくなったのではなく、そろそろ入学式が始まるから散ったのだと言う。そして私は門の前で降ろされ、ハグリッドにローブをピシッと直されていた。
「なかなかいい運転だったわ」
サンキュー。と、下手くそなウインクをするとハグリッドが眉を寄せる。太い眉毛だが、なんだか安心する。昔家にあったテディベアに似てる。太っちょのやつ。おばあちゃんがクリスマスに買ってくれたんだったなぁ。
「運転なんて…なんてやつだ。お前さんみたいなやつはスリザリンだな」
「スリザリン〜?この美少女がそんな悪徳業者みたいな寮に入るとでも?」
スリザリンの話はよくおばあちゃんに聞かされていた。狡猾さや臨機応変の能力、野心を持つものが選ばれていく寮。
おばあちゃんはグリフィンドールだから、絶対にあなたもグリフィンドールを選びなさいって口を酸っぱくして言っていたのを覚えてる。
「まぁよく考えるこっちゃな」
「思考力と判断力は素晴らしく兼ね備えているの。まぁグリフィンドールじゃなくても、レイブンクローね私は」
なんちゅう自意識過剰な孫。ボソリと呟いた言葉はアリアには幸い届かなかった。
----
階段を上がると、そこは1年生の大群だった。キョロキョロしていると、電車で仲良くなったシェーマスを見つけた。びっくりさせようと後ろから近づくと、生臭い生き物が顔面にへばりつき、それはもうこの世の終わりというくらいの大声を上げてアリアは階段から転がり落ちてしまった。
「あ、ネビルのカエルいた」
だれかがそう言ったのが聞こえたのだが、お前だろスリザリンは。まず人間を心配すべきだ。おかげで私の尻は真っ二つだ。元からだ。
あー痛いし生臭いしもういい事が本当にない。このまま家に帰りたい。尾てい骨が折れたかもしれない。
「大丈夫?」
「大丈夫だと思う?もう休学よ。怪我でね。ところでネビルって子はどこ?」
床に仰向けになりながら眉間に皺を寄せて、女の子が差し出した手を見つめた。栗毛の可愛い女の子だ。将来は美人確定だろう。
差し出してくれたのは嬉しかったので素直に握り、体を起こした。骨が軋んだ気がするが、若いからすぐ治るだろう。よっと起き上がり女の子にお礼を告げた。
「ありがとう。えーと」
「ハーマイオニーよ。よろしく」
「よろしく」
「ちなみにネビルはそこの少し太った男の子」
ハーマイオニーと名乗る女の子が指を指した。再度ありがとうといい、ネビルの元に鬼の形相で向かっていく。その場にいた同級生たちは怖い怖いと言いながら後ずさりし、ネビルの前までに道を作っていた。カエルを抱きしめ怯えるネビルに、アリアは恐ろしい勢いで歩む。
自分のペットくらい自分で管理しなさいよこのスットコドッコイ!!!!あなたのせいで私の背中とおしりはバキバキよどうしてくれるのかしらそのカエル唐揚げにしましょうか!!!!?
と、言おうとした瞬間に、目の前にマクゴナガルが来たのだ。溢れる滝の汗。ハローと呟いた瞬間に持っていた書類で頭を叩かれた。
「またあなたは!」
「おば、マクゴナガル先生私は無罪なんです…なんてったってこのカエル男が私の…」
「お黙り!さっさと並びなさい!ほかの1年生もよ!!!!」
マクゴナガルが声を上げると、ぞろぞろと、何も無かったかのように並び始める。はぁとため息を付くと、右側からは笑い声。
「あ、」
「よぉ電車の時以来だな」
マルフォイだった。会ったら何を言うかもう決まってる。さっきはごめんね。これだけだ。それも最高の笑顔を添えて。この笑顔を振りまくと老若男女、種別を問わず誰もが許してしまうの…。顔がいいって罪だ。
脳内シュミレーションはしてきた。大丈夫だ。素直に言うだけ。
「カエルを顔に付けるとは恐れ入ったよ。僕も真似してみたいな。流行るかもしれないなブス」
血管が切れた音と、大広間の門が大袈裟に音を立てて開いた音がほぼ同時だった。全校生徒の前で、喧嘩の仲裁をしたのは校長となったが、入学式の入口でまた乱闘をおこしたことを、おばあちゃんはため息を付きながら日記に綴っていた。
(いやあれはマルフォイが悪い)
prev next
back