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ダンブルドア校長の部屋から寮に戻るまで、暫くハーマイオニーと一緒だった。彼女とは話したことがあまり無かったから、2人で色んな話をした。スネイプの授業中の癖だとか、ハグリッドの身長だとか、本当にどうでもいい話で盛り上がったのだ。


「アリアは頭がいいから話の回転が早くて面白わ」

「そんなことないわよ。おばあちゃんにはもっとキビキビしなさいって言われるもの」

「…マクゴナガル先生がおばあちゃんだなんて…アリア本当に何者なの?」


アリアが歩くのをピタリと止めると、ハーマイオニーも不思議に思い足を止めた。少し後ろにいるアリアに首を傾げている。


「アリア?」

「何者か、わからないの」

「え?どういうこと??」

「私は両親もいないし、生まれもイギリスじゃない。そして、ある特定の動物と」


下を向いていたアリアが、ハーマイオニーを上目遣いで見つめた。ハーマイオニーは続きを言ってほしそうに固唾を呑んでまっている。


「…話しができる。奇妙だと思わない?」

「…えぇ、とっても」

「…でしょう?正直イルヴァーモーニーへの留学は、今のふざけきった噂から逃げたい気持ちが5割。そこへ行けば、自分のことが何かわかるんじゃないかと、期待をしている部分が5割なの」


噂は同情するわと、ハーマイオニーは肩を上げた。でも2年は長いわよ。とも。


「そうね。まさか入学して間もないのに留学の話が出たのは意外だけど、いい機会だわ」


そういえば、アメリカの人ってイギリス人のクイーンズイングリッシュを嫌う人が多いらしいわよ。とハーマイオニーがこそっと言うので、アリアはふははと笑ってしまった。


(そんなお上品に喋らないわよ私)


___


ハーマイオニーと階段で別れ、地下へ下っていく。とんでもないところに寮を作ったもんだと文句を言いたくなる。
時刻は夕方。さっきのスネイプの授業が最後だったから、みんな大広間に行っているのかもしれない。校舎内がやたら静かだった。

大広間へ行ったらステファニーと、グリフィンドールのシェーマスに留学の話をしよう。2人とも驚くかもしれない。


階段をひとつ飛ばしで歩いていく。おばあちゃんに止めなさいと言われるけど、今は見られていないからきっと大丈夫だ。
あと少しで寮に着く。そこを曲がれば。


「「痛!!」」


おでこに鈍い痛み。眉間にシワを寄せると、噂のマルフォイくんが同じように口元を抑えて痛がっていた。
最悪だと思った。でももうどうでもいい、とも。


「ごめんなさいね」

「…アリアか、スネイプと何の話をしたんだ」

「マルフォイには関係のない事よ。気にしないでさっさと大広間へ行くといいわ」

「何だよ心配して待ってたのに」


心配?待つ?何を言っているか分からなかった。色んな寮に噂話を広げ、毎日恥ずかしさで死にそうなのに。なぜこの男はこんなにも余裕気に生きているんだ。


「アリア?」

「…アリアって呼ばないで」

「は?」

「アリアって呼ばないで!馬鹿!あほんだら!あんたのせいで私の人生ぐちゃぐちゃよ!」


アリアがマルフォイの体をドンと押し、マルフォイは壁に背中をぶつけ顔を歪めた。

マルフォイにはアリアがなぜ怒っているのか理解出来なかった。ただぶつかっただけでそこまで怒るものなのだろうか。そうとしか、幼い彼には分からなかった。


「何を怒っているんだ!待ってたんだぞ!わざわざこの僕が!夕飯へ一緒に行こうと…」

「頼んでない!私がまた馬鹿にされるのを見て楽しむのね!?」

「え…」

「どれだけ私が馬鹿にされれば気が済むの!?もう気が済んだでしょ!?マルフォイなんて好きじゃない!!あんたが勘違いしただけじゃない!私、私、こんな学校来なきゃ良かった!!」


アリアは、ここ数年泣いたことのない子だった。
マクゴナガルに怒られようが、駅で迷子になろうが、親を知らなかろうが、泣いたことなどなかったのだ。女が泣くのは卑怯だと、そう思うほどに、アリアは泣けない子だった。

だが今、アリアは泣いている。ボロボロと涙を零して。走って、走って、それはもう全力で走ってマルフォイの声が聞こえなくなる距離でようやく止まった。


「ここどこ…」


女子トイレだろうか?それにしても静かだ。身を潜めるにはピッタリだと思った。


「あんた、何しにきたの…」

「…ゴーストなの?」

「ええそうよぉ。マートルっていうの」


そういえばおばあちゃんから聞いたことがある。女子トイレにマートルという名前の幽霊がいると。メガネをかけていて、おさげの女の子。まさにこの子のことだ。


「ちょっとだけここにいさせて。静かにしているわ」

「いいけど、あんたマルフォイとかいう男に告白した子でしょ?ゴーストが騒いでたわ」

「…ゴーストまで知ってるの…?」


アリアは壁の隅っこで体を丸め、顔を伏せた。隣にマートルも座り、蛇の蛇口をボーッと見つめている。


「あいつのせいで私のホグワーツ人生はぶち壊しよ」

「好きなんじゃないの?」

「誰があんなやつ」

「違うわ逆よ。マルフォイって子が、あんたのこと好きなんじゃないの?」



アリアは顔を上げた。まさか、馬鹿らしいこと言わないでよ、と言いたげに。


「まぁこの歳の子は恋愛感情には気づかないでしょうけどね。あと3年くらい経つと、違って見えるわよ」

「ありえない。だとしたら最悪よ」

「気が済むまでいていいわ。私も暇だったの」

「ねぇマートル…ここ、住み心地いいの?」


どういうことだと、マートルは首を傾げた。


「ここ、ちょっと怖い場所だから」


トイレの雰囲気を言っているのか、それとも何か感覚がそう訴えているのか、アリアは膝をぎゅっと抱きしめた。マートルは居心地はいいかも。だって1人になれるもの。と言って、空を泳いだ。

独特な高い声の幽霊マートルと、この日アリアは少し仲良くなった。



(ここへ きては だめだよ)

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