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レディーへ

やぁレディー。まずは涙を拭いて、鼻もかむといい。この手紙を見たってことは、側に僕がいなくて、きっと君はカロンやドラコの前で大きな瞳から涙を流しているんだろう?

レディーを泣かせるつもりはないんだ。だから感動的な言葉を綴るつもりはないし、わざと感情的にさせるような言葉も選ばない。
…選ばないつもりだけど、ここから先の僕の思いで涙を流してくれるなら、きっと僕にとってそれは嬉しいものだろう。


レディーに会った日のことを忘れたことはないよ。許嫁と言われた日も、妹になった日も、ありふれた笑顔に溢れた日々も、一度も忘れたことなんてなかった。いつだったか話してくれた話の中で、一番嬉しかったのは友達のことだ。もしかしたら忘れてしまったかもしれないな。


ホグワーツから帰ってきて早々僕に笑顔を向けたレディーはこう言ったんだよ


「ドラコがいて、オルガがいて、ランドールがいて毎日とても楽しいのよ!」

「へぇでも一時期ランドールって子を嫌ってたじゃないか」

「そうね、苦手な時もあったけど、ドラコがランドールといるときは幸せそうなの。あの2人きっと親友になれるのよ。大人になって、年を取っても、あの3人だけは永遠にいてほしい。そうすればきっと辛いことがあっても笑っていられるもの!」



僕は本当に嬉しかったんだよレディー。初めて会った時の君は屋敷に一人ぼっちで、ダンスパーティーに行けずに泣く不憫な女の子だった。それがいつのまにかたくさんの友達に囲まれている子だってわかって、そしてその友達を永遠に大切にしていける子だってこともわかった。恋人も大切だろう、家族も。でも友達はまた違った大切さがある。だからこそレディーの小さな世界を僕は守っていきたかった。

6年生の冬休み前にレディーにあのブレスレットを渡したのは、きみが友達のためなら命を懸けるということをわかっていたからだ。

レディーの大切にする友達のためなら、自分の命などいくらでもやれる。それ程の覚悟があったんだよ。


誰よりも優しいレディー。どうか怒らないで。平和になった世界で、今度こそ幸せな家庭の元で過ごしてほしい。世界一美しい笑顔で、大切な人たちに囲われて。


それが僕の一番の喜びであり、幸福なんだ。



ルーファス・ランペル








部屋にすすり泣く声だけが響いた。手紙を握りしめる私にドラコが肩を抱き寄せる。平和になったと思ったのに、みんなで一緒に未来を生きられると思ったのに。それなのに。
ヴォルデモートを倒したのに青空にならないのは、きっとルーファスが死んでしまったからだ。喜びたいのに喜べない、まるで今の私の思いを写しているかのように空は薄暗い。


カロンも大きな瞳から涙を流していたが、着ていた服で雑に涙を拭いてレディーの前まで歩み寄った。
頬を包まれる。屋敷しもべの手はなんだが固くて、人間のような暖かさはないはずだが、その瞬間だけはまるで人の手のような感触だった。どこかで触れたことがあるような。そんな暖かさ。


「レディー様…もう泣くのはやめましょう。わたくしも、レディー様も…これはルーファス様の意思でございます。レディー様達は幸せにならなければ」



涙の最後の一粒がレディーの手の甲にポタリと落ちると、カロンは立ち上がってその場から姿をくらませた。

カロン…!!

そう呼ぶ声が聞こえた気がしたが、カロンの目の前には広い草原と、墓地。
その前に横たわるルーファスがいた。


「やはりここにいらっしゃったのですね」



草原の中で、ルーファスの死体は異様な雰囲気だった。まだ生きてるように感じるのだ。

空を見上げると、曇り空の切れ間から太陽が差し込み始めている。薄明光線という現象なのだが、天使の梯子とも言われているそれはまるで黄金のようだった。

カロンは微笑んだ。天使がルーファスを迎えに来てくれたのだと感じたのだ。

太陽の光を浴びて、ルーファスはカロンの腕に抱かれた。手に触れば冷たい。死んでいるのだ当たり前だろう。でも頬はまるで生きているかのように、暖かく感じたのだ。


お嬢様はもう大丈夫ですよ。ルーファス様が守ってくださった命が、確実にお嬢様の未来を繋いでいる…だから…



「どうか安らかに」



(光に見届けられながら、その日ルーファス様は天使の梯子を上っていきました)

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