どうして?
ねぇなんで?
あの時あなたは笑顔で
これをくれたじゃない
ペアだよって、渡せてよかったって…
そんなつもりじゃなかった
あなたの命を引き換えにするなんて
「嘘…」
「悪いがレディー…本当だ。とても残念だが…」
立ちすくむレディーの横を、アーサーは顔を下に向けながら歩いていった。凍りついた空気。レディーは立っていられなくなりその場に崩れてしまった。すかさずドラコが抱きかかえたが、体重をすぐに支えられるわけもなく、2人は地面に座り込んだ。
「レディー!」
「ドラコ…ルーファスが……嘘よね!?嘘って言って!!!」
「…レディー」
レディーはドラコの胸元にすがった。目も当てられないほどに叫ぶレディーに、オルガも涙を流す。
ランドールはやはり一度死んでいたのだ。あの瞬間に。上手くいきすぎているとは思った。それでもランドールが生き返ったから、それでよかった。
それなのに、真実はあまりにも酷すぎた。
ただのブレスレットだと思っていたのに。くれたのも一年も前だ。なぜあのタイミングでルーファスは私にブレスレットをくれたのだろう。
「…」
レディーとともに涙を流していたのはオルガだけではなかった。ランドールもだ。実質ルーファスの命を引き換えに生きたのはランドールだ。自分の事故で人の命を引き換えに生きてしまったと、ランドールの心は酷く締め付けられていた。
過呼吸にも似た呼吸をするランドールに気づいたドラコはレディーをオルガに任せランドールの手を取る。ジワリと暖かい体温がランドールの体に伝わってきた。
「お前のせいじゃない」
「ドラコ…」
「本当に死んでしまったかはわからないだろ。みんなで行くんだ…」
レディーが顔を上げた。そんなレディーにドラコは頷く。ランドールの背中をバンと叩き、立ち上がって言ったのだ。
「ルーファスさんのところへ行こう」
そこに真実もある。そう続けたドラコはレディーの手を取った。彼女の小さな手は震えていた。
「俺たちも行く」
「…あぁ、行こう。みんなで」
4人は手を取り合い、その場から姿をくらませた。その姿をアーサーは遠くから見つめた。どうかわずかな希望があるのならルーファスに生き残っていて欲しいと願いながら。
---
ヒュンと独特な音をさせ、たどり着いた場所はランペル家の屋敷の前だった。オルガはまだ姿くらましに慣れていないのか「うー」と声を上げている。気分が悪そうだ。
オルガには申し訳ないが、レディーたちはそれどころではなかった。屋敷のチャイムを震える手で鳴らすと、出てきたのは屋敷しもべのカロンだった。
目を見開かせ、レディーの元へと走ってくる。
「お嬢様!!あぁよかった生きておられたのですね!」
「カロン!!ルーファスは!?」
突然肩を掴まれカロンは後ずさりをしてしまった。いつもと違うレディーの様子と、口から発せられたルーファスという名前に驚き、言葉をなくしてのだ。
そしてレディーが欲しい反応とは真逆の反応が返ってきた。目を逸らされてしまったのだ。
「…」
「嘘でしょ!?ルーファスに会わせて!カロン!!」
「…ここにはいらっしゃらないのです」
涙を流したカロンは服の中から手紙を取り出した。レディーたちが戦っている時、ルーファスが部屋に置いていった手紙だ。カロンの涙なのだろうか、ルーファスのものなのだろうか、手紙は涙が溢れたあとがある。
「これは…?」
「ルーファス様が屋敷を出ていかれる前に机の上に残して行ったものです」
ドラコたちはレディーのそばに寄った。手紙からルーファスの匂いがする。優しくて落ち着く、大人びた彼の匂いだ。
レディーは手紙を開き、震える手と小さな声で手紙を読み上げる。
レディーへ…ー
・
・
・
カッスルクームの綺麗な草原。ここはルーファスがレディーに姿くらましを教えた場所でもある。そんな草原の片隅には墓地がある。綺麗な花々が咲く中にある暮石にはアントン・ランペルと、メアリー・ランペルの文字。ルーファスの父と母の名前だ。
綺麗な花々と、緑の草原に似合わないような暮石。その前には1人の男が倒れていた。胸を押さえ、目元には涙が伝った跡がある。
雲間から太陽の光が差し込み、彼の顔を照らした。しかし彼は起き上がらない。そう、死んでいたのだ。
ランペル家の墓の前で、父と母の暮石の前で、ルーファス・ランペルは息を引き取っていた。
prev next
back