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いつもよりもベッドが温かかった。
そうだ。レディーが来ているのだ。今考えても夢のようだが、夢じゃなかった。こうして手を伸ばせば、彼女を掴むことができる。


掴むことができ…る?


いくら手を伸ばしてもレディーがいなかった。焦って目を開けて体を起こす。心拍数が上がって苦しいくらいだ。



「レディー!!」



レディーは目の前にちゃんといた。ただ起き上がっていたのだ。ホッとして胸をなで下ろす。「おはよう」と声をかけようとすると、レディーは何かを持ったまま、声を震えさせていた。


「ド、ドラコ…」

「…なんだそんなに強張った声で」

「これ」


レディーはいきなり日記を渡してきた。どこから出してきたのだろうか、昨日は持っていなかったものだ。そもそもレディーは何も持たずにここにきた。



「それは僕のじゃないぞ」

「わかってる!これ…私のなの」

「は?」

「荷物は全てハーマイオニーに預けてきたのよ!だからここにあるのはおかしいの。でも起きたら枕元にこれが」



怖ーー!!!と言いながらレディーがベッドで暴れるので静かにしろと口を押さえた。動物園の飼育員の気持ちが今ならわかる。動物よりたち悪い。この声に気づいて死喰い人が来かねない。



「おい!静かにしろ!」

「ご、ごめんドラコ」



ようやく落ち着いたレディーの持っている日記を受けとる。開こうとしても全く開かなかった。どういうことだと言いたげに、レディーを見つめる。レディーはそんなドラコに対し首を横に振った。



「ダンブルドアの遺贈だったの。私の家系のものだと」

「エジワール家の?」

「そう」

「…ハウエル家ではなくてか?」



「え?」と、レディーがドラコを見つめた。ドラコはいたって真面目に日記を指差している。指の先にはC.Hのイニシャル。
ハウエル家はレディーの父親であるロデオのファミリーネームだ。スクリムジョールに「エジワール家の」と言われたのでてっきり母方の方かと思っていた。



「ハウエル家だったら、Hに納得がいくだろ?」

「でもエジワール家って…」

「ハウエル家の最後の子供がレディーだったら、ハウエル家ではなくエジワール家になる」

「…あ」



そうしたらこの日記は父親であるロデオの家のものになる。でもロデオはなぜダンブルドアにこの日記を預けたのだろう。何か知られたくないことが書かれているの?



「アルバム…」

「え?なに?」

「父上の部屋に学生時代の写真があるんだ。もしかしたらレディーの父親も写っているかもしれない」



ちょっと待っていろと、ドラコは立ちあがり部屋を出て行った。静かになった部屋で日記を見つめる。C.Hと書かれた文字。Hがハウエル家を示すとしても、Cはロデオではない。ハウエル家の誰かということになる。

悩んでいるとドラコが部屋に帰って来た。古いアルバムを2つ抱えて。
二人で開いてロデオを探す。アルバムの中にいるルシウスとナルシッサにレディーははしゃぎ始めていた。



「ナルシッサさん綺麗!」

「レディー今はロデオさんを探せ」

「あーそうだそうだ」



あははと笑っているとレディーの手がぴたりと止まった。それに気づいたドラコがレディーの顔を伺う。



「レディー…?」

「…似てる。私に」

「え?」



レディーが指差す先にいたのは、レディーにそっくりな男。ルシウスの隣で笑い、チューイングガムを噛んでいる。モノクロでわからないが、おそらくブロンドの髪なんだろう。


「あ、見て。ロデオの手に」


写真を見たらロデオの手に日記が握られていた。この日記に間違いない。形も大きさも完璧だ。他にも写っているものはないかとアルバムをめくった。

しかしある日を境に日記が写真に写らなくなったのだ。



「この間にダンブルドアに日記を渡したということだな」

「一体なんのために…」

「この日記開かないんだろう?」

「ええ…」

「なにかの言葉が鍵になっているのかもしれない。それにこの死の秘宝のシンボルマークも気になるし」



ドラコはパタンとアルバムを閉じた。顎に手を当て、どうしようか真剣に悩んでいる。レディーは日記を抱きしめた。

開かない日記。
私の過去。
ロデオの秘密。

一体どうしたら。



「書庫には文献がたくさんある。もしかしたらヒントになることがあるかもしれない。死喰い人がいない時に探してみたらどうだ?」

「そうね…」

「…」


うつむくレディーに、ドラコはキスを落とした。ハッとしてドラコを見つめるレディーに微笑み、そっと抱き寄せる。


「大丈夫。きっとわかる」

「ありがとうドラコ…」


---


ドラコの家に来てからしばらく経つ。ドラコとナルシッサとプルートがうまくかくまっていた甲斐もありレディーの身は周囲にバレずに済んでいた。本当に見つからないこと自体が奇跡なのだが、他の死喰い人はマグル生まれの魔法使いを探すのが忙しいようでそもそも屋敷には人がいない。


この数ヶ月、レディーとドラコのやることと言えば日記に関しての書籍集めが主だった。
はじめは大量の書籍のため、まったく関連書籍が見つからない日々だったが、つい最近その中でも特に目を引いた本を見つけた。死の秘宝に関しての本だ。


ドラコが本を探すレディーを呼び止め、その本を二人で見る。
死の秘宝には三人の兄弟が出てくるが、この本には実在すると書かれていた。兄弟のファミリーネームはペベレル。珍しい名前。



「ペベレル家?」

「あぁ。そう書かれているな」

「お墓の場所まで書かれてる」

「本当だ。『イグノタス・ペベレルの墓は、ゴドリックの谷に存在する』」

「ゴドリックの谷って?」



ドラコに尋ねると、ドラコはイギリスの地図を持ってきた。地図を広げ、ゴドリックの場所を指差す。同じ成績とは思えない程にドラコは知識があると思う。感もいいし、何だか負けた気分だ。



「ゴドリックの谷はイギリス西部にあるんだ」

「ちょっと待ってよ。ゴドリックってもしかしてゴドリック・グリフィンドールがいたところ?」



ドラコが当たりと言うように微笑んだ。つまり村の名前はグリフィンドールに由来していることになる。レディーは閃いたように日記のシンボルマークを見つめた。



「そこに行けば…死の秘宝に関してわかることがあるかも」

「わからないが、行ってみる価値はありそうだな」

「…私行ってくる」



ドラコはその言葉に大きなため息を吐いた。レディーは何よと言いたげにドラコに眉を寄せる。



「なぜ一人で行こうとする」

「…だってこれは」

「私の家の問題か?」

「…ドラコ…」

「一緒に行く。もう二度とお前を見失わない。すぐに準備をしろ」



そう言って本を片付けるドラコの後ろ姿をまっすぐ見れなかった。視界が歪んだのだ。頬には涙が伝い、心は暖かい。
ありがとうドラコ。本当に、心からあなたに感謝する。



---


あと二週間でクリスマスだ。ゴドリックの谷は、少し雪がチラついていた。
姿あらわしをしてここにきたがなんだか落ち着いた場所だと思う。家があるカッスルクームに少し雰囲気が似てる。
もうすぐ夜になる。まだ夕暮れ時だと言うのにもう外は真っ暗だ。



「素敵なところね」

「今の闇に覆われた世界が嘘みたいだな」



ドラコと手を繋いで歩く。寒いためコートやマフラーはナルシッサに借りて着てきたが、手袋はやめた。彼と直接触れ合っていた方が暖かいのだ。



「あ、墓地が」

「あそこにあるのかもしれない」



墓地に近づく。多くの墓石の中から、目当てのものを見つけた。三兄弟の三男、イグノタス・ペベレルの墓だ。
そっと雪を払うと死の秘宝のシンボルマークが書かれていた。


「…」

「この辺に住む人に話しを聞いてみるか?」

「…そうね」



レディーが墓石を撫でていると、後ろからしゃがれたような老婆の声が響いた。雪の降る夜に、一人で佇んで墓石の前に立つ二人を見つめている。



「…お嬢さん、その日記どこで」

「え…」



老婆はレディーの持つ日記を指差した。まるで昔から知っていますと言いたげな表情で、老婆は申し遅れたと言い頭を下げた。



「私はバチルダ・バグショット。その日記を知っている者さ」


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