「レディーを頼む」
ドラコごめんな。レディー何処かに行っちゃったんだ。オルガはレディーが突然旅に出たことにわんわん泣いて、俺自身も驚いた。
オルガにはレディーから手紙が届いたんだ。「7年生を一緒に迎えられなくてごめんね」って。レディーきっとドラコを探しに行ったんだろ?
俺はまた二人に会いたい。
もしも、明るい未来がやってきて、二人に子どもが産まれたら一番最初に会いに行くよ。
だって俺、二人のことが大好きなんだ。
---
「……ドラコ………」
「ランドール!!」
大きな声で呼ばれランドールはソファーから転がり落ちた。いてー。と言いながら頭をさすり、叫んだ人物を見上げる。
「なんだよオルガ」
「なんだよじゃない!カロー兄妹の規律の時間が近いわ。ソファーで眠らないで」
そういうオルガの服装はごく真面目な生徒同様だ。スネイプが校長になってから以前の倍校則が厳しくなり、誰も歯向かうものはいなくなっていたため。
ランドールはあぁそうかと言いながらソファーへと座り直し、ネクタイをキチッと直した。
隣にオルガが座った。暖炉の炎が大きく揺れている。
「夢を見ていたの?」
「え?」
「ドラコドラコって言ってたわ」
「…あぁ。ここのところ毎日なんだ」
「私もレディーの夢を見るの」
「二人揃って夢の中まで仲良いな、あいつら」
オルガが静かに頷いた。口元は笑っているが、内心泣きたくて仕方ないだろう。
変わり果てたホグワーツで、親友が消え、生きているかもわからない状況。耐えろという方が難しい。
「早く会いたい…あの二人に…」
「…俺もだよ」
---
ドラコがレディーを抱きしめてからしばらく経った。互いに体をゆっくりと離し顔を見合わせると今度は唇を合わせる。
軽く触れるだけ。でもそれでいい。
今はそれだけでいいのだ。
「あー、レディー。聞きたいことだらけだ」
「何でもどうぞ」
レディーが微笑み、ドラコも緊張が解けたようで、椅子に座り直し、ベッドに座るレディーの手を握り問いかけた。
「なぜ僕のことを覚えている…あの日僕はレディーに忘却術をかけたはずだ」
これよ。と言いながらレディーは腕にしていたブレスレットを渡した。ドラコはわけがわからず首を傾げそれを握りしめる。
「ウィーズリー製品。双子からもらったの。それね『魔法返しブレスレット』って言うのよ。勘のいいドラコならどういう意味かわかるでしょ?」
「…つまり忘却術を防いだと?」
「そういうこと。さすがドラコね」
悩んでいたのが馬鹿らしくなるような話だ。一世一代の決意がウィーズリーの双子によって今消えていった。でもそのおかげでまたレディーと普通に話しが出来ているのだ、感謝してやらないこともない。
「僕の決意は何だったんだ…」
「ねぇ」
「なんだ?」
「私の記憶を奪ってどうだった?」
「え…」
レディーが真剣な表情で聞いてきた。思わず返答に困る。目が泳いでしまい、レディーから目をそらした。
「私から逃げないでドラコ」
「…」
レディーが頬を包んだ。か細い手なのにいつも暖かい。それだけで心が溶かされていく感覚だった。
本当はレディーを守るためだった。でもレディーから記憶を奪ってから自分が自分でなくなっていくような、苦しい思いをしたのは事実だ。
「…辛かったさ」
「うん」
「もう二度とあの関係には戻れないと」
「うん」
「もし会えても、レディーは僕の敵になるのではと」
「うん」
「記憶なんか、奪うんじゃなかったと」
笑えるだろ?ドラコが自嘲的な笑みを浮かべた。レディーは「そんなことないよ」と、涙を一筋流したドラコを抱きしめ、自分も泣いた。
「こう考えてみなかった?レディーを連れて行こうって」
「考えたさ。でも、お前に闇は似合わない。それに危険すぎる。常に死と隣り合わせだ」
「…」
「レディーが生きててくれれば、それで良かった」
「なんで…」
「愛しているから」
微笑んだドラコにレディーはまた涙をこぼした。ドラコはそんなレディーを抱きしめるために、自身もベッドの上へとあがった。
震える肩がやけに小さく見えて、やっぱり僕が守ってあげなきゃダメだと、そう思えた。
背中をさすっていると部屋のドアが鳴った。プルートが服を持ってきたのだ。レディーは誰?といいながらベッドへと隠れ込んだ。
そんな様子を見て微笑んだドラコは、「レディーの好きなやつだ」といい、ドアを開けるよう伝えた。
「失礼します。ドラコ様、服を…」
「ん?その声はプルートね!?」
「レディー様!お目覚めでしたか!」
レディーが勢いよくベッドから飛び降り、プルートを抱きかかえた。あはははと言いながらプルートを回している。
「レディー様、わたくし、その洋服を持ってきて」
「洋服?」
目を回すプルートを下に降ろし、自分の服装を見た。そういえば魔法省に潜入した時のスーツのままだった。そこらじゅう破れ、ススがついている。
「そうだレディー、なぜ魔法省のマークの入った服を…」
「それが話せば長いんだけどね…」
レディーは旅に出た目的をドラコに告げた。ハリーたちと一緒に分霊箱を探していること。その分霊箱とは何か。魔法省に入り込んだ意味。
全てを伝えた。ドラコは最初頷きながら聞いていたが、だんだん顔色が暗くなっていった。レディーが「ド、ドラコ?」と尋ねると怒ったようにレディーの肩を揺さぶった。
「なんて危ないことをしているんだお前は!じゃあスカビオールに捕まらなければヤックスリーに殺されていたってことじゃないか!!」
「あーそうなのよあの人さらい凄いよね!まさかここに連れてこられるとは思ってなかった。見たことのある森に姿を現したなぁと思ったのよ。だってあそこの森前ドラコと散歩したところで」
「レディー!!」
「…ごめんなさい。だってそうしないと…」
「そうしないとなんだ!?」
「ドラコとの明るい未来はないと思って」
レディーの声がだんだん小さくなっていく。つまりポッター達と手伝ってヴォルデモートをこの世から完全に消そうとしているわけだ。そうすれば闇は消え去ると思って。
「…そんなに簡単な話じゃないぞレディー」
「わかってる」
「…僕に出来ることは?」
ドラコがため息を吐きながらそう呟いた。レディーはパッと顔を明るくしている。
「いいかレディー、僕はポッターのためには動かない。でもレディーが未来を望むなら協力する」
「これから事が大きく動いた時に、闇陣営に悟られないように閉心術を使ってさりげなくハリーを助けてくれればそれでいいわ」
「ポッターを助けるか…嫌だが仕方ない。わかったよ」
「ドラコ様!レディー様!素晴らしいお考えです!!」
「あなたも協力してプルート」
「もちろんでございます!わたくしも、ドラコ様も閉心術には長けておりますので成功させましょう」
プルートが拳を握りしめた。彼もまた、ヴォルデモートが支配する世界を望んではいないのだ。
「レディー、その前に頬の傷をどうにかしよう。一生残るぞ」
「え!?あぁいつ怪我したんだろ…ヤックスリーかな…」
「…やはりあいつか。プルートお前は普通の魔法使いとは違う。屋敷しもべの独自の魔法で治せないのか?」
「やってみましょう!」
プルートが指をパチンと弾くと、レディーの頬に魔法がかかった。傷がつき、血に濡れていた頬がみるみるうちに消えていく。
数秒後には元の肌に戻っていた。
レディーはよかったー!と言いながら自分の頬を包んだ。
三人が笑っていられたのも束の間のことだった。部屋のドアがドンドンと鳴ったのだ。
プルートがここにいるということは、屋敷しもべではない。
(レディーを早く隠さないと)
prev next
back