「分かった?」
「分かりました!」
「よし、行ってこい」
「はい!」



「名前ちゃん、さっきの先輩とどんな関係!?」
「え、えっと……」

 彼女が教室に帰ると、高校で出会って、最初に友達になったちーちゃんが出迎えてくれた。井田家(いたち)という名字をもじって、ちーちゃんと呼ばれることが多いらしい。ちーちゃんは机に教科書をしまう為に戻る彼女に付いてきて、興奮気味に彼女に詰め寄った。

「中学時代の先輩で」
「部活が一緒だったの?」
「ううん、委員会が一緒だったの」

 ちーちゃんは目を丸くして、首を傾げる。腑に落ちない顔だった。なぜ、委員会が一緒なだけの先輩がわざわざ会いに来たのか。彼女は今だ!と思った。意識をしなくても、自然と顔が熱かった。ちーちゃんは彼女の照れている様子に、ピコン!と閃いた。

「名前ちゃん、もしかして!」

 彼女は小さく頷いて、小さな声で嘘をついた。

「こ、告白された」
「えー!すごいすごい!高校生活始まったばっかりなのに!え、えっ、名前ちゃん、付き合うの?」

 ちーちゃんはきょろきょろと周りを見てから、声を忍ばせて、彼女に尋ねる。彼女はまた小さく頷いた。ちーちゃんのテンションがピークに達した。小さな声できゃー!と叫ぶと、彼女の肩をぺしぺしと軽く叩いた。

「すごいすごい!少女漫画みたい!おめでとう、名前ちゃん!」
「あ、ありがとう」
「名前ちゃんも、実はその先輩のこと好きだったの?」
「……う、うん」

 彼女は真っ赤な顔で頷いた。ちーちゃんは彼女の可愛らしさに、自分まで顔を真っ赤にして、おめでとうおめでとう!と拍手をしてくれた。彼女はちーちゃんの反応に、なんだか本当に恋人が出来たような気分になった。ちーちゃんは彼女と、彼女の先輩を聞きたがった。彼女は何の面白みもない中学時代の話をした。そこに嘘は一つもなかった。



「いいか。まず、教室に戻ったら、俺に告白されたって言う」
「わざわざクラスメイトに宣言するんですか!?」
「違う。さっき一緒に居た友達に、聞かれたらの話」
「な、なるほど」

 佐久早と彼女は恋人役の関係に落ち着いた。が、本番はこれからである。佐久早は既に具体的にどうするか考えているらしい。佐久早が言うには、周りに認知させることが大事だと言う。まず第一歩は、ふたりが恋人になったことを周りに見せつけることがスタートになるようだ。

「名字は嘘が上手じゃないから、変に身構えなくていい」
「は、はい」

 彼女は頷きながらも、佐久早先輩もそんなに嘘得意じゃないないですかと心の中で突っ込んだ。佐久早はいい意味でも、悪い意味でも、素直な人間だった。

「過去のこと聞かれても、普通に中学時代のこと言えばいいし」
「了解です」

 彼女が頷くと、佐久早も頷き返した。ここからがミッションスタートなのだ。

「友達に俺のこと聞かれたら、に告白されたって言うこと。
 分かった?」
「分かりました!」
「よし、行ってこい」
「はい!」

 こうして、彼女の最初のミッションが決まったのである。そして、無事そのミッションは達成することが出来た。

あとがき

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