小さいこと大きいこと

 まだ異性の身体を受け付けたことがない頃は、その行為はとても特別なものに思えた。ある種の一大イベントのような。しかし、人間という生き物は回数をこなせば、新鮮味をなくしていくもので、すっかりその行為は彼女にとって日常に馴染んでいた。だから、同棲をしている恋人が後ろから抱き着いてきて、何となく分かる。したいんだろうなぁ、と。

「ねえ、お風呂入らない?」
「一緒に?」
「そう。一緒に」

 後ろを見上げれば、にこっと笑われる。昼神幸郎の笑顔を素直に受け止めることができるまで、割と時間がかかったような……と、彼女の思考回路が過去に飛びそうになる。昼神は彼女の胸を服越しに揉んで、そのまま彼女の耳にキスをひとつ。

「身体俺が洗っていい?」
「……うん」
「その間はなに」
「いや、変な洗い方しないでね」
「……名前のえっち」
「胸触ってる人に言われたくないよ」
「あはは。
 だって、俺えっちだもん」

 昔からこの恋人は飄々としている。振り回されてばっかりだった。恥じらいもなく言われて、年甲斐もなく照れてるこっちがバカみたいだ。彼女は少し拗ねたことを隠さずに、昼神に体重を預ける。

「幸郎くんがお風呂まで連れてってくださーい」
「はいはい。
 お安い御用ですよお嬢さん」



「だ、だから、変な洗い方しないでってば」
「だって、せっかく一緒にお風呂入ってるんだもん」
「……もう」

 バスチェアを二つ並べて座って、後ろから胸を揉まれる。彼女は昼神の大きな手を掴みながら、唇を噤む。変な声出そう。

「名前のかわいい声聞きたいんだけど」
「……私は聞きたくない」
「俺は、聞きたいの」

 むにゅむにゅとじゃれるように触れていた癖に、急に昼神の手の動きがねちっこいものに変わる。思わず彼女が身体を倒して逃げようとしても、昼神もぴったりと彼女の背中にくっついて来た。昼神の指先が胸の先端に触れて、やさしい刺激を送る。彼女はもどかしそうに腰を動かして、結局こうなるのかと半分諦めモードである。

「名前」
「囁くの禁止」
「なんで?」
「!」

 ちゅう、と音を立てて、彼女の耳にキスをする。そして、より一層低く昼神が彼女に囁けば、彼女は身体を震わせる。さいあく。ぬるり、と自分の足の間の変化に気付いた彼女は恥ずかしくて、たまらくなった。

「あ、う」
「名前のここかわいい」
「う、んっ、さちろ」
「うん?」
「つまむの、いたい」
「ごめん。
 撫でるほうが好き?」

 胸の先端を指先でやさしく撫でると、彼女は小さく頷きながら声を漏らした。素直な彼女が可愛いので、昼神はもっと彼女を可愛がりたくなる。

「名前舐めたいから、一旦泡流すよ?」
「?
 う、ん」

 すっかり惚けてしまっている彼女に昼神はキスを一つして、シャワーのノズルを捻った。



「さち、ろくん……それ、膝痛くない?」
「んー?大丈夫だよ」

 バスチェアに座ったままの彼女に対して、昼神は膝をついていた。昼神はわざと両手で胸を寄せて、そこに顔を埋める。彼女は何度されても、慣れない光景にぎゅう、と目を瞑る。彼女の恥ずかしがる表情が一等好きな昼神は意地悪く目を細めて、そのまま彼女の胸へ吸い付いた。自分のもの、という気持ちより、単純に昼神は柔い肌を吸うという行為が好きだった。その所為か、次の朝になれば殆ど何も残っていないのだ。

「やだ、……そこ見えちゃう」
「えー、じゃあ軽くね」
「やっ」
「ほんと名前の肌って気持ちいい」

 彼女の胸元に顎をつけて、昼神は彼女を見上げて笑う。素直な子どものような昼神の笑顔に、彼女の胸がきゅん、と締め付けられる。この笑顔に弱い彼女はボディケアが欠かせなくなるのだ。

「んっ、さちろ、くんっ」
「うん。そろそろね、こっちもね」

  昼神はふにゅふにゅと胸を揉みながら、胸の先端に唇を寄せる。昼神の唇が触れるだけで、ぷくり、と反応してしまう。その反応を見て、昼神がにやっと笑って、彼女は目を逸らす。

「あっ、もう、そんなに」
「んー?」

 聞く耳をもたない。強い刺激より、柔い刺激の方が好みな彼女のために、昼神は歯を立てないように、ちゅうちゅうと優しく吸う。ときどき、舌先でぐりぐりと押されて、彼女の腰が浮きそうになる。彼女は刺激を耐えるために、昼神の頭を抱き締める。昼神も、彼女の背中に腕を回して、ちゅうう、とより一層彼女を可愛がった。



「うう、髪乾かしてない」
「あとで、乾かしてあげる」

 少しだけ、まだふたりとも身体が濡れている。おでこを全開にして、少しだけ抵抗する彼女の頬に昼神はキスをして、そのままベッドへ押し倒した。

「やあっ」
「名前かわいい」
「んう」

 ちゅう、と唇をあわせて、そのまま昼神は彼女の首筋、胸元、お腹、太ももとキスをしていく。すっかり昼神に身体をぐちゃぐちゃにされた彼女はそれだけでかなりの刺激になる。そして、そのまま昼神の大きな手が彼女の膝に触れる。彼女はこの行為の中で、二つ慣れないことがあった。一つは、昼神に足を開かれること。どうしても、抵抗があった。どうしても抵抗があるのに、ぐいっと昼神の大きい手に足を開かれると、そこでも、じゅんと濡れてしまう。

「名前触っていい?」
「……うん」

 今更、ダメなんて言わないよ。なんて、思いながら彼女は昼神の問いかけに頷く。昼神は指の腹で撫でるように入口部分を何度も擦る。そのもどかしさに彼女は腰をくねらせて、昼神を見上げた。その視線に気付いた昼神は優しさ4割、意地悪さ6割で笑う。彼女はやだやだ、と首を横に振って、「さちろうくん」と甘えるように呼んだ。昼神は彼女の頬、まぶたにキスをして、そのまま唇を重ねる。

「んっ、ふぅ」
「名前もっと口開けて」
「あ、」
「そのまま」

 昼神の言う通りに口を開けると、そのまま熱くて大きな舌が彼女の口の中へ入ってきた。そして、つぷり、と昼神の指も、彼女の中に入ってきてしまう。彼女の腰が震えて、もっと、とでも言うように揺れる。昼神はそのまま指をゆっくりと差し込んで、ちゅぷちゅぷと動かした。もどかしかった刺激が強くなって、思わず彼女の腰が逃げそうになる。昼神は彼女の頭を押さえて、強引に舌を絡ませた。昼神は舌を絡ませるというより、重ねて、すり合わせるのが好きだった。温かくて、ぬれている口の中はぬれやすい彼女の中みたいで、すごく興奮する


 二つ目、昼神のものが入ってくる瞬間だった。何度も何度も、彼女は昼神を受け入れた。それでも、やっぱり昼神との体格差は埋まらなくて、自分の中に入ってくる異物感は慣れない。彼女は少しだけ息が苦しくなる。昼神は彼女を抱き上げて、よしよしと頭を撫でる。この態勢だと、余計に昼神のものが奥へ来てしまうのだが、それよりも昼神のぬくもりがないと、耐えられない。

「うう、さちろくん、ちゅう、して」
「ん、」
「んう」

 昼神は彼女の耳の形をなぞるように触れて、そのまま耳たぶを親指と人差し指挟んで軽く擦った。彼女は首をすくめてしまうが、彼女の中はとろとろとさらに濡れ始める。そして、やっと昼神のものを受け入れた彼女は深く息を吐いた。

「うう、やっぱり」
「いたい?」
「うう、ん、ちょっと、苦しいだけ」
「ごめんね」
「ううん、私が小っちゃいから」

 らしくもなく、眉を下げる昼神に彼女はちくちくと心が痛んだ。

「いや、俺が大きいから……って、自分で言うのも、なんかね」
「んっ、……さちろ、くん」
「うん?」
「さちろくんの、大きくて苦しいけど……、でも、……」
「?」

 急に彼女の中がきゅうう、と締って、昼神は少しキツく感じてしまう。彼女は顔を真っ赤にして、昼神の肩に頭を押し付けた。

「きもちいい、よ」
「!」

 小さな小さな声で、彼女が昼神の耳元で告げる。初めて、だ。彼女が素直にそんなことを言うことは。

「はう」
「ご、ごめん……でも、名前のせいだよ」
「え?」
「名前のせいで、また大きくなっちゃったじゃん」
「あっ」

 おかしい。彼女は苦しいはずなのに、どうしようもなく気持ちが良かった。はやく、昼神に触って欲しい。もっと、幸郎くんと一緒になりたい。彼女は昼神の首に両手で掴まって、小さく腰を動かした。ぐずぐずとした動きでも、彼女には十分な刺激だ。

「ああ、もう、名前のばか」
「さちろくん、うごいて?」
「……」

 彼女のおねだりに、昼神は満面の笑みで返す。言われなくても、動くよ、名前。こんなに可愛い名前を見せられて、我慢できるわけないでしょう?

「あ、でも、ゆっく」
「うーん、やさしくはするけど、ゆっくりはなし」
「うそっ、あ、こんなっ」

 彼女は必死に昼神に掴まって、唇を噛む。すぐに昼神に唇を奪われて、息が苦しくなって、無理やりそっぽを向く。でも、結局昼神に強く突かれて、昼神の好きな声をあげしまうのだ。下から強く揺さぶられる度に、気持ち良くて背中が反りそうになる。けど、昼神にくっついていたい彼女は懸命に昼神の首に回した手に力を込める。自分の手首を力いっぱい掴んでいるのに、手が外れそうになる。やだ、幸郎くんのそばがいいのに。

「ひっ、う、うう」
「え、名前、ごめん、痛かった?」
「違うけど、けど、さちろくん、から落ちそうになるの、やだ」
「……ああ、そういうこと」

 彼女は自分が泣くと、相変わらずすぐ動きを止めてくれる昼神の優しさにまた胸を締め付けられる。普段飄々としている癖に、彼女の痛みに敏感で、すぐ気付いてくれて、すぐ駆け寄ってくれる。好き、さちろくん、好き。昼神はゆっくりと彼女を下ろして、ベッドサイドをガサゴソと漁り始めた。「ちょっと待ってね」「?」「これで大丈夫になるよ」「!」彼女は自分の両手首に巻かれたネクタイに、目が点になる。昼神は器用に、彼女の腕の中に頭を通すと、にこっと笑う。

「幸郎くん、これ」
「これで落ちないでしょ?痛くないように結んだつもりだけど、いたい?」
「いたくない」
「んじゃ、続きしよ?」
「う、うん?」

 確かに、落ちないけど。これって、これって……、なんか。彼女が呆気にとられている内に、また昼神が彼女の中へ入ってくる。もう抵抗する体力もない彼女は声を上げながら、昼神を受け入れた。腰を掴まれて、思い切り下から突かれると、意識が飛びそうになる。ネクタイに拘束されているおかげで、昼神から離れはしないが、これはこれで、変な感じがする。昼神から完全に逃げれなくなってしまった。

「やっ、あっ、さち」
「やばい、名前めっちゃきもちいい」
「もう、ばか」
「はは。
 名前かわいい」

 昼神は眉をきゅう、としかめながら、へらり、と笑う。俺の言葉にきゅーってなる名前の中も、真っ赤になる名前のほっぺも、ほんと、ぜんぶかわいい。かわいいけど、そんなに締め付けないで。俺耐えれなくなっちゃう。昼神はどんどん上がっていく熱と、ぐちゅぐちゅと激しくなる音にくらくらしてきた。すっげえ気持ちいから、もうちょっとこのままで居たいのに、腰が止まらない。欲求のままに、彼女を求めてしまう。

「あう、やっ、もうっ」
「ん、おれもっ」

 彼女の中がきゅうう、と締って、昼神はそのまま熱を吐き出した。余韻に浸るように、腰をゆるく動かすと、身体に力が入らない彼女は小さく声を漏らした。
 

 

「ああ、跡になっちゃったね」
「あ、ほんとだ」
「ごめん。もっと柔らかいタオルとかの方が良かったかな」
「両手結ぶ以外の選択は?」
「だって、名前が俺と一緒がいいって」
「……」

 彼女はベッドの中で自分の両手首を見て、少しだけ、嬉しかった。昼神は特にお揃いとか、キスマークとか、目に見える執着を残そうとはしない。ときどき、それが寂しい。私少し歪んでるのかもしれない。

「名前?冷やそうか?」
「ううん、このままでいい」
「でも」
「いいの」
「そう?」
「うん」

 彼女の反応に昼神は内心首を傾げる。後日、彼女の小さな不満を知った昼神がまた解決するのは別の話である。



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