おおみみさん

 大耳練の彼女は、十二月から二月にかけて忙しい。とても忙しい。十二月はクリスマス、一月は準備期間として、二月にはバレンタインデー、そして大本命の大耳の誕生日と連日恋人としての大イベントが続くのである。恋人としてのイベントではなくても、大晦日、お正月という大事なイベントも挟むので、とってもとっても忙しい。

 あと、以前は大耳の妹の成人式のときも、あった。なぜか彼女も大耳宅の実家で、大耳と、仲良くして貰っている妹と、彼女で三人で写真を撮った。大耳の妹の着物姿は大層綺麗だった。偶然通りかかった最近越してきた近所の人に、大耳が兄ではなく、叔父と間違いわれたこともあった。その日の夜、大耳は彼女の胸で少し落ち込んだ。

「俺やっと見た目の年齢に追い付いたんやと思ったんやけど」
「練くんはいつだって落ち着いてるから!大人の余裕だよ!」
「……大人の余裕がある男はこんなことで、一々ぐちぐちしぃひんもん」
「もそう見えてるって話だよ、ちゃんと自分の本音話してくれるの嬉しいよ!」
「あーもうそうやって俺のこ甘やかさんといて。俺が甘えん坊になったら、名前のせいやからなぁ」
「え、そんな名誉なこと言われていいの?」

 真顔でそう言う彼女に、大耳は困ったように笑った。本当は困っていないけど。どこまで自分のことを大好き!と言葉でも、行動でも示してくれる彼女が大耳は大好きだった。自分らしくないと甘え方を彼女には出来てしまうくらい。大耳は彼女の愛情を一心浴びて、すっかり彼女にお腹を丸見えにする幸せを知ってしまった。頼りにされることも、もちろん嬉しいが、

 だが、やっぱり大耳練は大耳練だった。

「無理せんでええから」
「だいじょ」
「俺のために無理して、名前が体調崩したり、機嫌悪くなったりする方が俺は嫌やなぁ」
「う、うぐっ、分かった、無理はしない。約束する」
「うん、一緒におってくれるだけでええんやかな。それ忘れんといてな」
「は、はいっ」

 大耳はソファに座った彼女に目を合わせるために、膝を付いて、彼女の手を握って、言い聞かせる。渋々が彼女が頷けば、穏やかな笑顔で、大耳はうんうんと頷いた。



 そして、やってきました。大耳練、二十七歳の誕生日!テーブルには大耳の好物を並べて、お高いお酒も出して、ふたりで旅行に行って、高くて普段は使えないグラスも引っ張り出してきた。大耳は浮かれた者の三角帽を被らされながらも、笑っていた。もちろん、テーブルの真ん中にはケーキ。ホールだけど、サイズは小さめ。アラサーふたりには、大きいサイズはちとキツい。

「練くん今年もお誕生日おめで」

 pipipipi

「あ、すまん、信介からや」
「き、北くん!?このタイミングで!?出ていいよ!?」
「ごめんな……もしもし?信介?今?……今丁度名前と誕生日な、え?あ、ううん、ありがとぉ。
 あー今年は……まあ、ちょっと出張で、ええ、んーっと、そうやなぁ、信介の方が先と言えば……やなぁ」

 彼女は悔しそうに拳を握る。北信介はなぜか高校時代から、彼女と張り合ってくるのである(いや、北なりのお茶目)。

「今年も北くんより先に言いたかったのに!」
「はは、悔しがっとるわ」

 愛され大耳は穏やかに笑って、彼女の頭を撫でるのだった。



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