厄介な彼氏

・頭を空っぽにして読みましょう
・全てはファンタジーです





「やっぱり、しなきゃダメ?」
「……」

 名字名前はベッドの下から睨んでくる恋人の目線に、もう下がりようのない眉をへにゃへにゃと情けなくさせた。恋人こと白布賢二郎は目を潤ませる彼女に、げぇと眉を寄せる。もう既にお分かりだろうが、このふたりは相性が悪い。何でも気にして、うじうじしてしまう彼女と、何事も一刀両断とばっさりとしてる白布はまさに水と油だった。そんなふたりが出会い、衝突(主に白布からの苦情)し、互いに認め合い、紆余曲折を経て恋人同士になった。

 恋人と言っても、その関係性は人それぞれだ。全く連絡を取り合わないカップルも居れば、毎日連絡を取り合うカップルだって居るだろう。恋人だからこそ、特別なことが話せる、見せることができる。委ねることだって、できる。その逆も然りで、恋人だからこそ、見られたくない、知られたくないことだってある。

 彼女は今まさに、そのときだった。恋人の白布だからこそ、抵抗がある。彼女ははだけたブラウスを頼りなさげに身に纏って、鎖骨辺りでぐしゃぐしゃになっている下着が何とも、もどかしかった。スカートも、靴下も、いつの間にか居なくなっていた。彼女が自分の手のひらで隠している部分を守っていた布も、どこに行ってしまった。いや、先ほど白布に脱がされた。

「仕方ねえだろ。名前のここ、俺の指入らないし」
「……そ、そうだけど」

 白く眩しい内ももが、ふるふると震えて、少しでも足を閉じようとするが、できない。がっしりと遠慮なく白布の手が押さえているからだ。彼女は羞恥心でこれ以上ないほど、顔を真っ赤にしていて可哀想だった。白布は白布で、生殺し状態が中々辛かった。一応白布の為に言っておくが、行為自体は互いの同意の上である。彼女も白布に触れたい、触れてほしいと思っている。でも、余程のことがない限り他人に触れられることのない、自分でしか触れない部分を恋人に舐められるのはとても抵抗があった。たださえ先ほど、白布の指で触れられるだけで、死にそうだったのに。

「でもぉ」

 彼女は両手を重ねた手のひらに力を込める。白布は視界の暴力に、舌打ちしそうだった。何もしなくても柔らかそうな胸が見えてるだけで、中々やばいのに。彼女が両腕を寄せるものだから、より柔らかそうに、魅惑的に、胸も寄せられるのだ。まぁるい頬が赤くなって、白布の好きな瞳が白布を映して、薄い膜を張る。白布は我慢できずに、舌打ちをする。彼女はガーンと顔を青くして、えぐえぐと泣き始めた。白布は泣き始めた彼女に、自身の綺麗な髪をぐしゃぐしゃと乱雑な仕草で乱した。

「……俺だって、名前の嫌なことはしたくない」
「しらぶくん」
「ただ名前と、したいだけで」
「……」

 彼女はじっと白布を見つめるが、白布は全然視線を合わしてくれなかった。それでも、綺麗な横顔の頬が真っ赤で、唇が気まずそうに噤まれていた。彼女は自分の胸が、きゅん、と高鳴るのが分かる。普段から白布くんすごい怖いけど、時々すっごいかわいくてズルい。彼女は白布の姿を改めて見つめて、じゅん、と熱を零した。白布もワイシャツは羽織ってるだけで、スラックスはベルトを外していた。白布の欲求は、下着の上からでも十分だった。反応している白布に、彼女は恥ずかしいのに、嬉しい自分が居て不思議な感覚だった。

「だから」
「しら」
「名前」
「え、ハイ」
「耐えろ」

 えー!まさか、ここでいきなり精神論!?

 彼女はさっきまでの、甘酸っぱい雰囲気は、ムードはどこに行ったのかと、目を丸くする。白布はんなぁものは知ったこちゃないとでも言うのか。また下から彼女を強い眼差しで、見上げてきた。

「指で解すことが出来なかったら、必然的に舌でやるしかない」
「そ、それは」

 それはそうだけど、でも

「俺は名前に痛い思いはさせたくない」
「しらぶくん」

 真剣な白布の表情に、再び彼女の胸が高鳴る。

「だから、この手どかせ」
「え、ちょっと!」
「うるさい」
「こら、白布君っ、あっ、も、もうっ」

 彼女の最後の砦跡は呆気なく突破された。白布は迷いも、戸惑いもせず、彼女の足の間に顔を埋めた。彼女は羞恥心で、目の前の光景のショックでしぬかと思った。でも、それは許されなかった。強引な言葉と態度とは違って、白布はとてもやさしく彼女に触れた。まるで、仔犬のようだった。散々白布に身体を触れられて、熱を零しているところを、ちろちろと舐められて、声が我慢できなかった。こんなにも高く、甘ったるい声が出せるなんて、自分でも知らなかった。

 やわいのに、腰が跳ねてしまう刺激に、彼女の足は勝手に閉じようとしてしまう。白布は彼女の足に挟まれないように手で固定して、自分と同じようになっている所も、ちろちろと優しく舐めて、ちう、と吸ってみた。彼女の腰がびくん、と跳ねて、白布の髪をぐしゃり、と掴んだ。その反応に、白布は暴れる心臓を抑えながら、彼女を見上げる。彼女は色っぽく眉を寄せて、口を小さく開いて、肩で息をしていた。もしかして、名前イッたか?

「けんじろくん」
「ぅえ」
「……今の、もっかいして?」

 馬鹿みたいに恥ずかしがり屋な彼女に、白布のことを下の名前で呼ぶのはとても珍しかった。事実、片手で数えられるほどだった。それも、甘ったるい声で呼ばれて、らしくもなく白布は狼狽えてしまった。白布は素直に彼女に甘えられるのに、弱かった。可愛いと思うどころではない。本気で心臓が痛くて、苦しくなる。どうやら彼女は白布から与えられる刺激に、ぼぅっとして、雰囲気に流されているらしい。

「名前……絶対あとで、後悔するからな」
「けんじろうくん、おねがい」
「くっそ」

 そのままふたりが初体験を無事達成したのは、ふたりのみぞ知るのだ。



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