後編



 俺は適当に服を脱衣所のカゴに放り込んで、シャワー室へ足を踏みを入れた。誰もいないと思っていたが、一番奥の隅のカーテンが引いてある。俺割と練習終わってすぐ来たつもりだったけど、二番手だったのか。どうせこの時間帯は同じ部のヤツしか残っていない。「おつかれ〜今日めっちゃ汗かいたよなぁ」なんて、いつもの調子で喋りかけたら、返ってきたのは高い悲鳴だった。うん?俺は首を傾げて、そのカーテンへの前まで歩く。ひたひたと裸足で歩く音が妙に響いて、心臓の音も聞こえてきそうだ。

「……あの、もしかして」
「……」
「名字?」
「も、もしかしなくても、名字です」
「なんで、ここ男子しゃ」



「あれ?さるー?先に来たんじゃねぇの?」
「木兎やめろ。ほらさっさとシャワー浴びんぞ」
「そうですよ、木兎さん。
 人のシャワーの邪魔しちゃダメです」

 腕の中にいる名字の身体の感覚が分からなくなる、くらい脈が激しくなって、苦しい。平静を装うとしている俺と彼女の息遣いをどうか、シャワーがかき消してくれますように。ケラケラと笑う声と、冷静に突っ込む声が行き交うシャワールームをこんなにも、怖いと思ったことがない。不安で泣きそうになっている彼女をぎゅうと強く抱き締めて、ぽんぽんと頭を撫でる。彼女はそろそろと顔を上げて、申し訳なさそうに眉を下げていた。彼女が好きだという笑顔を作って、首を横に振る。だいじょうぶ。

 彼女は小さく頷くと、俺の胸に頬を寄せて目を閉じた。うーん、心臓の音バレそうで、やだな。ほら、彼女は嬉しそうに頬を緩めて、俺の背中に腕を回してきた。

「なあ、さる!マジでだいじょうぶか?長くね?」
「そうだな、さるー!」
「だいじょうぶー!俺、今日この後親と飯行くから、かなり丁寧に洗ってんの!超汗かいたし」
「まさか回らない寿司だな!」
「そー!だからさっき行っててー!」
「羨ましいぞー!さる!」
「んじゃ、お先なー」
「木兎さん行きますよ」

 騒がしい奴らはシャワーも早ければ、着替えも早い。ドタバタと去って行く足音に、俺と彼女はやっと胸を撫で下ろして、深く息をついた。

「もう大丈夫ですかね」
「バレー部以外もう残ってないでしょ」
「……すみません、迷惑かけて」
「いいよ、でも、どうして男子のとこに名字がいるの?」
「今女子のシャワー故障中で、で、その、……白福先輩と雀田先輩が、その、軽くケンカしちゃって……気付いたら、ボトルが飛んできて」
「かかっちゃったのか」
「はい」
「ちなみに、ケンカの原因は?」
「雀田先輩がめちゃくちゃ楽しみにしていた期間限定の、ちょっとリッチなおやつを白福先輩が食べちゃって」
「あ〜……あの二人はときどきやるよなぁ」

 はは、と苦笑いをする彼女は少し赤葦の笑い方に似ていた。マネージャーにも、色々事情があるようだ。「あの、猿杙さん」「うん?」「非常に言い辛いんですけど、あの、」「あ」「当たってます」彼女の白いお腹に当たる元気になってしまったものに、気付いて、俺は固まってしまう。違う、違うんだ、名字。これは不可抗力だから、好きな子と裸でくっついていたら、嫌でもこうなるし。でも、そんなことを言う訳にも行かず俺はごめん、と視線を逸らすぐらいしか出来なかった。名字はにこっと笑って、するすると慣れたように俺のものに触れる。

「名字さん?」
「もう、どうせ丸見えですからね、今日はここでも使いますか?」
「なっ」

 彼女は両腕で隠した胸をわざと寄せて、小首を傾げて見せた。俺が分かりやすく狼狽えると、「冗談です」「え」持っていた薄いタオルを広げて、身体を隠した。全然隠れてないけど。むしろ中途半端な感じがめちゃくちゃえろいけど。シャワールームの、独特の蛍光灯の下では名字の肌は青白くて、いつもより生々しく見える。

「人が来ない内に上がります。シャワーの邪魔して、すみませんでした」
「……」
「ちょ、な、なにするんですか」

 俺は彼女を抱っこして、壁に押し付ける。その隙に、彼女の太ももの間に膝を割って入れると、彼女は踵が着かずに背伸びをしたような体勢になった。彼女の両腕を俺の首に回して、抱っこをし直せば彼女の体重が俺の膝にかかる。彼女は顔を真っ赤にして、ひどく狼狽えた。つま先がつくかつかない、状態では不安定らしい。

「な、なんですか、これ」
「うーん、こないだ名字に勝ち逃げされたし、せっかくだから名字のこと気持ち良くしようかなって」
「ご両親とご飯は!?」
「んーあれは嘘」
「猿杙さん嘘つくんですか!」
「つくよー」

 唖然と俺を見つめる彼女がなんだかおかしい。白いほっぺたにちゅーをして、わざと彼女の胸を潰すように強く抱き締めた。初めて直に触れ合う彼女の身体は温かくて、柔らかくてうっとりする。「さ、猿杙さん」「うん?」「流石に裸は恥ずかしいです」彼女は俺の肩に手を置いて、距離をおこうとする。「うーん、でも俺は結構名字に恥ずかしいとこ見られてるから」「……から?」「おあいこってことで」俺の満面の笑みに、彼女は顔を青くも赤くもして最終的にはやっぱり耳まで真っ赤に染まってしまった。

「んう」
「あのさ……」
「はい……」

 ちゅ、ちゅと唇を重ねながら、最近思っていたことを言ってみる。「名字のこと、名前で呼んでもいい?」「……も、もちろん」「じゃ、俺のことも、ね」彼女は目を大きくして、俺を見上げた。彼女の口で呼んで欲しいのに、キスしたいっていう欲求もあって、なかなか唇をあけてあげれない。この啄むようなキスをしていると、本当に彼女の親鳥にもなった気分だ。いや、まあ、親って感覚はもう殆どないけど。もじもじと微かに動き始めた太ももに、合わせるみたいに俺も膝を揺らしてみる。

「ひっ、あっ、なんで、やまと、さんっ」
「いたい?」
「そうじゃない、です……けどっ」

 どさくさに紛れて名前を呼ばれた俺はつい浮かれて、ぐりぐりと刺激するようにわざと膝を動かした。水ではない、ぬるりとしたものが肌に触れて、俺は彼女が感じてきたことにニヤけそうになる。ぐちぐちと静かな音を繰り返しているうちに、彼女の腰の揺れが大きくなる。

「ぬるぬるだ……」
「言わないで、ください」
「うん、ごめんね名前」
「思ってもない、くせにっ」
「ここ、かたくなってるね」
「んっ、だめっ」

 柔らかい中にあるかたいものをわざと押し潰すように、彼女の腰を掴んで動かした。くちゅくちゅとした濡れた音と、彼女の途切れ途切れの甘い声に俺めちゃくちゃあそこ痛くなった。「だ、ふぁ、あ、ああっ」「すごい。びくんって、なった」「だから、いわなくて……いいの」彼女は身体を小さく震わせながら達して、息絶え絶えに俺を睨んできた。そんなかわいい、顔をされても。ご機嫌をとるように、彼女の好きなキスをして、よしよしって頭を撫でる。

「……ちょろい、私ちょろ過ぎる」
「名前はかわいいね」
「……今日めっちゃ攻めですね、大和さん」
「うん、まあ、こないだのお返しだしね」

 俺は彼女を一旦膝からおろして、白いお腹に大分大きくなったもの押し付ける。ぬるぬると、彼女のお腹が汚れて行く。この薄い肌の下に、いれたいという欲求が最近やばい。「あの、……ここじゃ、ないんですか?」彼女はそっと俺のものに触れて、本来ならいれるべきところへ持って行こうとする。くちゅりと音を立てて、彼女の中へ俺のものが入りそうになった。

「名前さん?」
「……わたしは、ここがいいです」
「……」
「わっ、なに、なにするんですか」

 こないだの彼女ようにしゃがみ込んで、足を開くと、彼女は顔を青くして俺の頭に触れる。

「うーん、どっちみちやるのに、いきなりはきついでしょ?ここ」
「ひい」
「指でもきついのに、……ね?」
「ね?……うそ、だぁ」

 俺は彼女が暴れ出す前に、入れかけた指を抜いて、舌先で割れ目に触れた。彼女は腰を引いて逃げようとするが、後ろは悲しい事に壁だ。割れ目をなぞるように舐めると、とろとろとして、口の端から垂れそう。タイツ越しとは言え、ここに俺出しちゃったんだよな。あのときと同じように、ひくひくと動いているものを見つけて、甘やかすように舌先を少しずついれていく。白い太ももが震えて、弱弱しく髪を引っ張られる。「やまと、さん、だめっ」「ちょっと、がまん」「もうっ、したっ」はや。泣きそうな彼女の声に俺は笑いながら、舌の抜き差しを繰り返す。ぴちゃぴちゃとした音はわざとではない。本当に。

 そろそろかと指を差し込むと、相変わらず締め付けてくる。正直、めっちゃいれたいけど我慢。ぎちぎちな感じを広げるように、少しずつぐちぐちと指を動かした。小さな呻き声に、俺は舌でちろちろと散々可愛がったところをいじりながら、指を増やしていく。指を付け根までいれて、できる限りばらばらに動かすと、ぐちゃぐちゃとした音がシャワールームに響く。彼女の腰ががくがくと震え始めて、タイルに何度も肌が当たる音がした。真っ赤でかたくなってるところも舌で転がして、ちゅうと吸えば、俺の指は思い切り締め付けられる。

「あっ、やぁ、あっ、んう、……あっ、ん」
「おっと」

 崩れ落ちそうになる彼女の身体を支えると、彼女は俺の胸に寄りかかりながら荒く息を繰り返した。

「名前だいじょうぶ?」
「……大和さん」
「なに、……ぎゃっ!?」

 彼女が俺の腕から出て行くので不思議に思っていると、いきなりシャワーが顔に直撃した。名前と呼んでもシャワーは止まらないし、むしろ強くなってる気がする。俺は腕を伸ばして無理やり彼女を抱き締めて、やっとシャワーを止めることに成功した。髪も顔もびちゃびちゃだし。手で拭って、髪をかき上げる。腕の中の彼女は悪びれた様子もなく、俺を睨んでる気さえもする。

「もう、だめでしょ」
「ダメなのは大和さんです!こんなところ綺麗でもないのに、舐めちゃダメです!」
「そう?ちゃんと洗ったんじゃないの?ここ」
「や、あ、もうっ」

 お尻を撫でて、そのまま後ろの方が指を差し入れる。そこはさっきよりも、俺のことを受け入れてくれた。相変わらず締め付けてくるけど。名残惜しい気持ちはあったけれども、俺はすぐに彼女の中から指を引き抜いた。

「まあ、でもシャワー浴びて上がろうか」
「え……いれないんですか?」
「……色々準備があるでしょう、男の子には」

 避妊とか、ゴムとか、コンドームとか、いろいろ。もにょもにょと口を濁らせていると、彼女が俺の我慢の限界って感じのものを手で包んで、いいですよって言った。え、何が?

「私ピル飲んでるから、平気です。このままでも」
「え、いや、でも」
「大和さんも知ってるでしょ、一年生のころ月一でしんでたの」
「……最近妙に安定してるなと思ったら、薬飲んでたんだ」
「部活に支障出したくなかったんです」

 いいよ言われても、大丈夫だと言われても、そこは俺には未知の世界と言ってもいい。初めてなのにとか、こんなとこでとか、もう色々気にしちゃって、なかなか踏ん切りがつかなかった。彼女は眉を上げるので、怒られると身構えたけど、違った。

「大和さん」
「は、はい」
「……もう、これ以上焦らさないでください」

 ああ、もう、だからさ、そういう顔ずるいよ。悲しそうに涙ぐんだ目で見られたら、ぐっと来ちゃうから。俺も木兎ほどじゃないけど、単純だもん。

「あっ」
「痛かったら、すぐ言うの。約束、わかった?」
「はい」



「んんっ、うっ」
「痛かったら我慢しなくて、いいよ」
「大丈夫で、す」
「痛いって素直に言ってくれた方が俺も助かるけど」

 彼女の片足を持ち上げて、俺は彼女の中に入っていく。きつい締め付けに、予想よりもずっと熱くて絡んでくるの感覚がダイレクトで、腰が甘く痺れる。彼女の眉間の皺に、やっぱりチクリと胸が痛んだ。「やまと、さん」「うん」「ちょっとだけ」「うん」「ちょっとだけ、いたい」「うん、わかった。ゆっくりね」彼女の素直な強がりに俺は眉を下げて、今日何度目か分からないキスをした。俺の首に回された彼女の腕が俺を強く引き寄せるから、むにゅむにゅと彼女の柔い胸が潰れる。彼女の口の中に舌を突っ込んで、痛みを忘れさせるように舌を絡ませた。

 やっぱり、キス好きだな、俺。俺より小さい名前の舌が俺に好きにされて、ときどきぴくんって痺れたみたいになったり、一生懸命絡ませようとしてくるのも好き。舌を重ねて、舌の上の細かいぷつぷつのところを擦り合わせるのも気持ちいい。単純な動きでも繰り返すと、じわじわと身体の中で熱が生まれてくる。彼女がキスに夢中になっているおかげで、俺のものは何とか彼女の中に入り切った。ぎゅうぎゅうの締め付けに息一つするのも大変だ。

「ん……名前平気?我慢してない?」
「これで、ぜんぶですか?」
「うん、全部だよ。ありがとう」
「やまと、さん、……ちゃんと、みてください」

 彼女はうっとりとした目で普段と変わらないお腹を撫でて、俺と繋がっているところへ手を伸ばした。俺も彼女を支えつつ、視線を落とす。根本まで入っている光景はなかなかアレだけど、彼女がとても嬉しそうに笑うものだから、少し可愛く見えてきた。

「でも、すごいね」
「?」
「名前のここ、本当に入ってるのかなって思うくらい変わってないもん」
「あ、確かに、そうですね。
 でも、ちゃんと入ってます。分かりますよ……大和さんの、大きいし、苦しいくらい感じてます」
「……」

 彼女は指先で俺の根本を近くを撫でてから、自分の下腹部に手を置いて、にこっと笑う。本当に苦しそうな彼女の息遣いに、俺はつい大きくなってしまった。「んっ……大和さん苦しい、です」「ごめん、名前が可愛くて」「……」「痛い、痛いって」彼女は照れているのか、無言で俺の乳首を摘まんできた。やめなさい。どこで覚えてくるの。そう言えば、俺は彼女の胸触ってないな。思い立ったら、すぐに触れたくなる。片手で彼女の胸を鷲掴みにすると、きゅんと彼女の中が動き始めた。

「……見ないで下さい、何も言わないで下さい」
「名前はかわいいね」
「悔しい」

 悔しいってなにそれ。俺は少し笑って、彼女の胸の感じてるところに唇を近づけた。もう片方は柔らかさを堪能するように、むにゅむにゅと手のひらを広げて揉みしだいた。「やっ、う、あっ」彼女の感じてる姿に、ゆるゆると腰が動き始める。俺に合わせて、彼女の中も動き始めてる、気がする。さっきよりも大分濡れてるし。ぐちゅぐちゅと濡れた音は思ったよりも響いて、いくら生徒が少ない時間帯とは言えちょっと怖い。俺はノズルを捻って、シャワーが当たらない角度に彼女を壁に押し付けて、ガタが外れたように腰を揺らした。

「だ、だめっ……やまと、さんっ」
「ごめっ、一回出せて」
「ああっ」

 ずっと彼女の可愛いところを見るだけだったところに、こんな蕩けるほどの刺激だ。そんなに持つはずがない。彼女を思い切り抱き締めて、腰を落とすと、彼女の中が今まで以上に俺を締め付けてきた。「うあっ」「やぁ、あ」俺のものがどくん、と大きく震えると、どくどくと継続的に熱を吐き出す。腕の中の彼女も、律儀にびくびくと震えるものだから、俺は彼女の肩に頭を預けながらつい腰を動かしてしまった。

「ごめん」
「だから、大丈夫ですってば」
「……いや、そっちもなんだけど」
「え、……あの、大和さんの、まだかた」
「うん、ごめんね」

 俺が眉を下げて困ったように笑えば、名前は目を潤ませて首を横にふった。




「見て下さい!大和さん!これ!」
「かわいい名前の手だね」

 俺は両手に肉まんを持っているので、顔面に押し付けられた小さな手をどかすことが出来なかった。彼女は俺の答えが気に入らないようで、「違います」と唇を尖らせる。その口に、肉まんを押し付けて、俺はのんびりと自分の肉まんに口をつけた。

「ふにゃふにゃです!ふにゃふにゃ!まるで大和さんの、笑顔のよう!」
「おそろいじゃん、やったね」
「違います!ふやけてるんです!大和さんがあんなにするから!」

 彼女は顔を真っ赤にして、俺の脇腹に手刀を入れてくる。やめて、めっちゃ無防備だから、肉まん落ちる。俺も彼女も、二人ともジャージに身に包んで、首元もマフラーで防寒ばっちりだ。さっきまであつかった身体の熱はすっかり冷めてしまっている。

「名前は元気だねえ。
 あんなにしたのに、お腹すかないの?」
「……大和さんえっちです、最低です、スケベです!」
「あはは、間違ってないね」

 ばくばくと元気に肉まんを食べ始める彼女の様子は俺はほっとした。彼女が大丈夫と言っても、やっぱり不安なのだ。

「名前生理来たら、教えてね」
「しょ、食事中にセクハラやめてください」
「いやいやいや、だって彼女の身体だもん。心配になるじゃん」
「……大和さん」
「はい」
「私たち、付き合ってるんですか?」
「え」

 俺は痛む頭をおさえて、後輩との関係を見つめ直す必要があると強く実感した。このあと、俺の心情を察した彼女が「付き合いましょう、大和さん!」とバレンタイン限定のココアまんを無理やり俺の口に突っ込もうとするのは、また別のお話である。



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