前編



 絶望。俺の頭には、その二つの文字がデカデカと乗っかって、気を失いそうになった。いや、いっそのこと気を失いたい。ひとつ下のマネージャーは先輩マネージャーよりも、俺に懐いていると自負するほど、俺に懐いている。「猿杙さん!」と寄ってくるのが可愛い。頭を撫でると気恥ずかしそうにしながらも、大人しく撫でられるのも可愛い。とにかく、可愛い。一人の後輩として、年下の女の子に懐かれて、愛でることを許される不思議な優越感に俺は浸っていた。でも、それは最初の話で。今はそんな彼女のことが好きで仕方ない。

「名字はさ、なんで俺に懐いてんの?」
「怖くないからです」
「即答。
 顔が笑ってるって言いたいんだろ」
「えー、そんな言い方しないでください。私は猿杙さんの顔好きです。初めて部活見学したときも、猿杙さんの優しい笑顔見て入ろう!って決めたんです!」
「ほんと?そんな可愛いことを言う後輩には、肉まんを奢ってやろう」
「わーい。嬉しいです」

 両手を上げて喜ぶ彼女の頭を撫でて、首掛けていたタオルを外す。そろそろ休憩が終わる。「でも、本当です」「うん?」俺の手をぎゅう、と彼女の手が握って、じっと下から真っ直ぐ見上げられる。

「本当に、猿杙さんの笑顔は魅力的です」
「え」
「その笑顔にほっとしたり、心強いって思ってる人います」
「名字」
「ここにも、あっちにも」

 彼女はにこっと笑って、さるーと俺を呼ぶ木葉たちに視線を向ける。その笑顔に、言葉に、俺は笑い方を忘れた。耳が熱くて、心臓が痛い。今から運動するのに。

「猿杙さんタオル貰います」
「ありがと」
「はい」

 言いたい方に、お礼言えなかった。彼女はタオルを受け取ると、パタパタと走ってマネージャーたちの元へ向かっていく。さっきまで、小さな女の子だったのに。あー……、やばいな。それからと言うもの、俺は彼女に気軽に触れることはなくなったし、今まで気にしなかった彼女の胸元やお尻に目が行く。自己嫌悪もひどい。完全に異性として、意識してしまっている。しまくり、だ。首筋に垂れる汗だけで、抜けそう。本当に、やばい。部活のとき以外に会うの怖い。

「さる!今まで以上に気合入ってんな!」
「ん、まあ」
「俺も負けてらんねー!赤葦ー!」

 ヘイヘイヘーイ!と今日も元気な木兎が羨ましい。でも、本当にこの有り余るエネルギーはバレーで消費するしかない、と思っていた。



 思っていたはずなのに、何故、俺の俺は部室で元気になってんの?ちょっと仮眠とっただけだし。朝のヤツとは違うし。まさか、疲れから……?え、ウソだろ。時間を確認して、廊下に聞き耳を立てて、恐らく誰も来ないことを信じたい。この時間帯だ。今までの経験則から、基本的にこの時間帯は誰も来ない。さっと抜いて、さっと片付けるか。まあ、こんなとき自然に思い浮かぶ姿は名字である。最近タイツの上からジャージを着ることが多い彼女は、どうせ見えないと俺たちの前でも平気で着替える。下にTシャツ着てても、脱ぐことがえろいのに。入部当初は初々しさはどこへ行ったのか。

 そんな失礼なことを思いながら、彼女で抜こうとして、バチが当たった。

「……猿杙さん?」
「!」

 静かに開いた部室の扉から顔を出したのは彼女だ。今まさに、俺の頭の中で、可愛いく泣いていた……彼女が何も乱れてない制服を身に付けて、部室に入ってきた。

「大丈夫ですか?なんか息が苦しそうだったんで」
「……」
「なんで、背中向けるんですか!ひどいで……っ」

 終わった。部室で抜いてる男の先輩とか、変態でしかない。恐怖の対象でしかない。俺への好感度が急激に下がっていく。彼女が息を飲んで、後ずさるのが分かった。俺は情けないが、言い訳も、何も出てこなかった。

「……誰のこと、想像したんですか」
「え」
「だって、猿杙さんもスマホも、何にも持ってないです。それとも、何もなくても、できるものなんですか」
「あの、名字さん?」

 俺の腹に回っている小さな手はなに?背中に触れる温かいぬくもりはなに?どうなってる?床へ座り込む俺の背中に彼女は抱き着いて、横から顔を出す。じっと、元気なものを見つめられていることに気付いて、俺は足を閉じた。「あ、だめです」「だめじゃないです?!」彼女の小さな手が俺の腹を撫でて、そのまま太ももの隙間へ。温かくて、柔らかい手に触れられると、ふわふわする。彼女の手が俺のものに、触れて、先端を遊ぶように突いた。

「んっ、こら、名字」
「すごい生き物みたい」
「先輩で遊ばないの」
「……先輩なら、部室でふしだらなことしないでください」
「あっ、名字本当にダメだって」

 叱るように、名字の手が少しきつめに俺のものを握る。あ、やばい、ちょっと興奮するかも。って、違う違う。彼女はそのまま俺のものを扱き始めた。くちゅくちゅ、と濡れた音がして、彼女の白い手が汚れて行く。ダメなのに、人に触られること、何よりも彼女に触れられる気持ち良さに眩暈がしそう。彼女が頑張って両手を伸ばそうとするたびに、背中に当たる柔らかさにもくらくらする。俺は自然と、名字の手に自分から擦り付けに行ってしまっていた。

「やばい、名字の手きもちいい」
「本当ですか?」
「ほんとっ」
「先輩腰動いてて、かわいい」

 先輩という響きにも、なんだか興奮する。いつもはさん付けの癖に。くすくすと笑う声に、バカにされてるなとも思うし、可愛いなとも思う。俺のことを転がして心底楽しそうにする彼女がかわいい。でも、やっぱり後輩だなぁ。彼女の手に重ねて、俺の好きなように動かせば、小さな手がびくびくと震えた。「さ、さるくいさん」「ここ、こーして」「……はい」素直な返事に、ぞくぞくする。ほんとに、気持ちいい。絶対、今日のことで抜く。あ、そろそろ、でるかも。そんなときに、彼女がするりと離れるものだから、俺の口からは恥ずかしい声が出た。

「……かわいい」
「名字こら」
「こらって言われる状態なのは猿杙さんです」
「……悔しいけど、否定できない」

 彼女はふふん、とわざと鼻で笑って、ちょこちょこと俺の前にやってきた。「猿杙さんこれで手を拭いてください。私も拭きます」「え、俺まだ」「分かってます」差し出されたウェットティッシュは部室に転がっていたものだ。二人で手を拭いて、ゴミ箱へ俺が投げていれる。そして、彼女がいきなり俺に跨ったと思ったら、そのまま腰を下ろしてきた。「な、ま、だ、え」「先輩日本語話してください」ざらざらとした独特の感触は彼女の足を包んでいるタイツだと理解して、頬が熱くなる。じゃあ、この先にあるものは……うわ、やばい、出そう。

「名字、これやばい」
「猿杙さん見て」
「うぁ」

 彼女はスカートをわざと広げるように両手でもって、俺を見上げる。ぎりぎりのところで、俺のものは彼女のスカートの中に隠れているのだ。顔を隠す俺に、彼女は小さく笑う。「これだと、入ってるみたいですね」「え?」「私のここに、猿杙さんの」彼女はカーディガンの上から、お腹よりも下のところ撫でて、にこっと笑った。……名字、本当にお前ってやつは。彼女の腰を引き寄せて、下から突くように腰を動かせば、彼女の口から可愛い悲鳴がもれた。「やん」「もー名字さ、そういうのどこで覚えてくんの?」「んっ、先輩たちが部室に置いてる、ほん」「……あー」名字は俺の肩に掴まって、俺に揺さぶられる。

「先輩まって、まって」
「ごめん、むり」
「ちょっといたい、やさしくして」
「え」
「おねがい」

 あー……。動きを止めて、名字の顔を覗き込むと彼女の眉間には少し皺が寄っている。つい、本当に、つい、ごめんなと白いほっぺたにキスしてしまった。ふにふにほっぺたも、気持ちがいい。名字はどこもかしこも柔らかい。「猿杙さんここにして」「……」「私痛かったのに」「……分かった、分かったから」「わぁい」結局、俺は名字に逆らえない。彼女が少しだけ尖らせる唇に、唇を重ねた。あ、もう、本当唇も柔らかいな、名字。なんだか甘い香りもするし。キスを繰り返すうちに、彼女が俺の首に腕を回してきて、どんどん密着度が増していく。

 スカートの中で、一番奥に触れるところを先端で優しく突くと、支えている彼女の腰が揺れる。「名字痛くない?」うんうん、とほっぺたを赤くして頷く名字はかわいい。唇を離すと、すぐに追ってくる。「んっ」「ふっ、あ」啄むようにキスをすれば、彼女の太ももがもじもじと動いた。好きなのかな、と思って繰り返すと、先端に俺だけじゃない、とろりとしたものを感じて、目を開いた。俺の視線に気付いた彼女は、恥ずかしそうに視線を逸らす。

「名字きもちいい?」
「……」
「名字ってば」
「あっ、だめだめ、さる、くいっ」
「こらー先輩呼び捨てにしないー」
 
 タイツの上からでも分かるくらいに、彼女のとろとろなところをぐりぐりといじれば、彼女は涙目になって腰を揺らした。名字ほんと、えろい。俺の軽口に、彼女は唇を尖らせた。その仕草も可愛いくて、俺はまた彼女の唇にキスをしながら、腰を動かした。ほんとに、見た目だけだったら、入れてるみたい。ぐちゅぐちゅ、という音が思いのほか大きくて、彼女が急に俺に抱き着いて来た。

「猿杙さん」
「うん?」
「大丈夫かな、外に聞こえそう」
「大丈夫大丈夫」
「ほんとに、言ってますか?」
「ほんと」
「ひゃっ、もう、やだ、そこっ」
「いや、かわいいからさ」

 丁度目に入った赤い耳に息を吹きかければ、彼女の太ももがきゅうっと閉まる。その圧迫感に出そうになる。彼女のスカートの中の奥はぐずぐずに濡れていて、温かい。本当の、彼女の中はどれくらい熱いんだろう。もう、彼女のスカートのこととか、ここが何処とか、正直どうでもよくて、欲求に正直にしかなれない。ぐちゃぐちゃと、俺と彼女は互いの熱いところを擦り合わせながら、キスを繰り返した。はぁはぁという犬みたいな息遣いと、ぐちゅぐちゅって音は繰り返し聞いても、やばい。興奮と、熱と、部室でこんなことしてるっていう背徳感みたいなものが、身体の中でぐちゃぐちゃに混じって、快感へ変わる。

「名字もう、でそうだから」
「やっ、やだ、このまま」
「こらっ、よごれ、ちゃうから」
「いいの、さる、くいさん、よごして」

 絡み合うキスの合間に、好きな子からそんなことを言われたら、呆気なく達してしまうに決まってる。「うっ」「あ、あっ、んんっ」スカートの一番奥とろとろになったところに先端を力任せに押し付けた。ひくひくと生々しく動いているものを感じて、熱を吐き出しながらもつい腰を突き上げてしまった。「さる、くいさん、だめ、わたし」「名字も、ね」「やぁ、ああ」俺の出ている熱も、ぐりぐりとしつこく押し付けられてる刺激も、相まって名字は可愛らしく鳴きながら達してしまった。そんな彼女を抱き締めて、最後までぐちぐちと腰を揺らしていると、じわじわと彼女のタイツをひどく汚しているのがよく分かった。



「えっと、名字さん」
「何ですか猿杙さん」
「その、さっきのことは……」

 名字はするり、とスカートの下からタイツを脱ぐと、小さく丸めてトートバッグに押し込んだ。俺も着替えをして、窓を開けて、証拠は隠滅中だ。眩しくくらいの、白い生足に目が行きそうになる自分を叱咤しても、上手く言葉が出てこない。

「猿杙さん」
「は、はい」
「で、誰を想像して抜いてたんですか。最初の質問答えてもらってません」
「……え」
「え、じゃないです。答えてくれないと、先輩たちに言いつけちゃいます」

 何をだ。何を。名字むしろ共犯のくせに。

「クラスメイトですか?アイドルですか?それとも……マネージャーの先輩たちですか?」
「恐ろしいこと言わない!」

 白福や雀田で抜いてるなんて、ウソだとしても、そんな恐ろし過ぎる。俺がびびれば、名字は頬を膨らませる。

「じゃあ、ちゃんと教えて下さい」
「……名字」
「はい、なんですか」
「いや、えっと、名字で……ぬいて、ました」
「……はいっ!」

 彼女はぽかん、としてから、満面の笑みで頷いた。その謎でしかない反応に、ちょっと待ってと名字へと手を伸ばしたとき、バタバタと騒がしい足音がしてきた。「そろそろ来ますね!猿杙さん今日も部活頑張りましょうね!」「う、うん〜」彼女はとてもいい笑顔を残して、部室を去って行った。



「あれ、猿杙さん早いですね」
「ほんとだ。さる早いな」
「え、うん、まあ」
「さる!負けねぇぞ!どっちが先に着替えるか勝負な!」
「木兎悪いけど、一人でやって」
「えっ」
「珍しくさるが冷たい……」
「木葉もうるさい」
「とばっちり」



「猿杙さんは部室で、一人えっちする性癖なんですか?」
「違うはずなんだけどなぁ」

 あはは。笑って誤魔化しても、誤魔化すことができないものが俺の足の間にある。彼女はあのときと同じように、一つも乱れていない制服で現れた。俺のものにそーっと触れようとする彼女を捕まえて、膝の上に抱っこすると彼女は目をぱちくり、と瞬きを繰り返した。「名字今回も一緒にしてくれる?」「ひえ」彼女のお腹を撫でて、スカートを捲ろうとすれば、彼女は頬を真っ赤にした。ほっぺたにキスをして、彼女の腰を下ろそうとして、「おわ」「先輩ちょっと待って」名字は器用に俺の上から、下りる。

 彼女は座り込んでいる俺の足を大胆に開くと、ちょこんと可愛らしく座り込んできた。にこっ、と笑い掛けられても、俺は笑えない。俺の頬はめちゃくちゃ引き攣る。

「名字さん」
「今日はこっちで、したいです」

 こっちって、まさか。彼女はあめ玉を放り込めるくらいに、口を開いて、俺を見上げる。彼女の口の中から、赤い舌が覗いて、腰がぞくぞくとしてきた。彼女の口の中に、視線が釘付けになっていると、口は閉じてしまった。柔らかく色付いた唇が俺のことを呼んで、誘ってくる。

「それとも、先輩はこっちがいいですか?」
「なっ」

 彼女は立つと、スカートの端を両手でもって軽く上げる。器用にも、彼女は俺が下から見上げて、ぎりぎり見えないところで、スカートを止めるので見えない。

「……どっちも」
「それはだめです」
「……う、うーん、じゃあ前者で」
「はい。
 あ、いきなり頭掴んで、激しくしちゃダメですよ」
「し、しないし」
「こないだいきなり腰掴んで、思い切り突かれたの私忘れてません」
「うっ」

 彼女はスカートから手を離して、もう一度しゃがみ込む。俺のものに唇が近づいて、彼女の吐息に震えてしまう。彼女はキスをするように先端に触れて、ちゅうと軽く吸う。その優しい刺激に、息がつまった。そして、ゆっくりとゆっくりと彼女の唇を割って、俺のものは彼女の中へ入っていった。とろとろとして、温かい口の中はこないだの彼女のスカートの中のようで、俺は本能で腰を揺らしたくなる。彼女との約束なので、我慢。彼女はちゅくちゅくとマイペースに出したり入れたりを繰り返した。彼女の柔らかい唇がぬるぬるに汚れて、擦れると気持ちがいい。「あっ、さるくいさん?」「ごめん、ちょっとだけ」俺は彼女の口の中から、わざと出すと、彼女の唇に先端をわざと押し付けた。

「ん、んう」
「きもちい、い」
「口閉じてた方がいいですか?」
「ちょっとだけ、開いて」
「……むう?」
「そう。あ、やばい、いい感じ」

 ぷるぷるとした唇の隙間に、先端で蓋をするように押し付けるの気持ちいい。濡れた赤い唇はとてもいやらしい。彼女はじっと、じーっと、俺を下から見上げて、ちゅうちゅうと不意打ちで吸い付くものだから、色んな意味でいっぱいいっぱいだ。彼女の頭に驚かさないように触れて、頭を撫でる。彼女は嬉しそうに、目をとろんとさせた。ああ、もう、えろくて、可愛いってなに。名字、好き。少しだけ、上がったお尻がもぞもぞしてるのえろい。

「名字の中入れて」
「ふぁい」
「あっ、ちょ、そんなに深く、だめ」
「んんっ」

 ちゅぷちゅぷと、濡れた音に彼女の頭を撫でる手に力がこもる。だめ、マジで、出る。彼女の中はどこでも、温かくて、柔らかくて、気持ちがいい。やばい、このままじゃ、名字に腰押し付けそう。だめ、だめ。

「……こら、名字」
「んーんー」

 名字は俺のものを口いっぱいにしたまま、にこっと笑う。いいですよ、っていつもみたいに、可愛く笑う。そんな顔されたら、甘えたくなるじゃん。俺は彼女の髪を掴んで、ゆるゆると腰を動かした。ちゅぷちゅぷと、した音に濁音がついた音に変わって、名字の苦しそうな息遣いに余計に興奮して、動きが激しくなる。

「あっ、でるっ」
「きゃっ」

 さすがに口の中では、無理。俺が罪悪感でしにたくなる。急いで名字の口から抜いたのは良かった……良かったんだけど。「名字絶対目開けちゃだめだぞ」「ううっ、何とも言えない匂いが!」「実況やめて」思い切り名字の顔にかけてしまった。急いでいつも部室に転がっているウェットティッシュで、丁寧に拭き取れば、彼女はそろそろと目を開ける。瞬きを繰り返して、目に異常がないことを確認して、俺はほっと胸を撫で下ろした。

「名字ごめんな」
「大丈夫で、わっ、な、なんですか」
「ん〜次は名字の番かなって」
「あっ、だめ、だめですっ」

 膝の上で、彼女のスカートに手を潜り込ませて、太ももを撫で上げる。タイツの上から、こないだとろんとさせた所に触れれば、秘かに湿り気を感じて、俺はにっこりと笑う。彼女は顔を真っ赤にして、眉を上げた。「猿杙さんの、その笑顔はいやです」「俺は名字の、赤い顔好きだよ。すっげえかわいい」「……ずるい。やんっ、猿杙さんだめ」彼女が首を横に振っても、俺は指の腹でつんつんと優ししく突く。彼女は腰を揺らして、可愛いく鳴くものだから俺はもう一度元気になりそうだった。

 そのとき、きりっとした声とのんびりした声が聞こえてきた。その瞬間の名字の動きはすごかった。忍者かと思った。するり、と俺の腕から抜けると、彼女は急いで窓を開けて、服の乱れを直す。猿杙さんも!と視線で言われて、慌てて俺もジャージに足を突っ込んだ。

「わっ、名前じゃん。びっくりしたー」
「名前何してんの」
「あ、猿杙といるー。二人でイチャイチャしてたんでしょ?」

 白福の言葉に玉ヒュンした。心臓がどっどっと激しくなって、いつもの笑顔が作れない。彼女はきょとん、としてから、俺の上のジャージを引っ張ってわざとらしく可愛い顔を作ってきた。

「猿杙さんバレちゃいましたね」
「えっ」
「ほら、二人とも梟谷の良心をからかわないの〜準備しに行くよ〜」
「はーいー」
「了解です」

 ぞろぞろと三人が部室を出て行って、俺はやっと息が出来た。でも、すぐに扉が開いて、彼女がひょっこりと顔だけだした。

「名字?」
「残念でしたね、猿杙さん」
「え」
「今回は私の逃げ勝ちです!」

 名字はとってもご機嫌らしい。無邪気に溢れんばかりの笑顔を残して、名字は部室を後にした。……かわいい、かわいいよ、名字。絶対、次は可愛がってやる。



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