溺れてたの




次の日の夜も人魚は歌った。



前日会った少年を想いながら。



月に、また会いたいと願うかのように。








そんな人魚の想いが伝わったのか


草むらの間から、昨日の少年が姿を見せた。



「綺麗ですね。」



少年は昨日と変わらず話しかける。



『ありがとう。』



少しつり目の少年に言葉を返した。


「いつも此処にくるんですか?」


『いや、いつもはこの先の湖に居る。だから昨日も今日も此処に来たのは気まぐれ。』



へらりと笑って見せると、少年は下を俯き「そうですか…」と淋しそうに呟いた。



「では、名前を教えてください。また気まぐれであえるかもしれません。」





少年の言葉に目を泳がせる。



『時雨…』



「私は丁と言います。…時雨さん、明日も此処に来ますか?」



丁は無表情のまま小首を傾げる。



『…気が向いたらな』




人魚は川へと帰って行った。





††††





それから次の日も、その次の日も


丁は人魚の元へ通った。


歌に導かれるように




『どうして丁は飽きもせず此処に来るんだ?俺が居るかどうかも分からないのに』


川の水を掬い取ると、月光に照らされキラキラ光る雫が尾鰭に落ちる。



「いるかもしれないじゃないですか。少しでも可能性があるなら行ってみる価値は有ると思います。…それに、時雨さんの吟を聞くと元気が出るんです。」



無表情だった顔が少しだけ綻ぶ。



『丁は笑えば子供らしいな』


丁の頬を弄っていると、鬱陶しそうに眉根を寄せた。


そんな丁の様子を見て笑みをこぼした。





 

『丁、知ってる?』



「?」




キョトンとする丁に悪戯っぽい笑みを見せ

ぐっと顔を近づける



『人魚は人間を食べるんだ。もしかしたらの丁のことも食べちゃうかも』



丁の反応に胸を躍らせる。



「食べませんよ。時雨さんはそんな人じゃないですから。」


予想外の反応に一瞬固まってしまう。


そんな様子に丁は不安になり時雨の顔を覗き込んだ。


すると、何かが外れたように時雨は声を上げ笑い出した。




『ふ…ふふっ………あははははっっ!!!』



お腹を抱え尾鰭で水面をベシベシと叩く。


暫くして落ち着いた時雨に丁は不機嫌な目を向けた。



「何がそんなに可笑しいのか解りません。」


『ふふ…だって普通は、もっと、こう…さ。「たべないでー」とか、怖がるでしょ。…まぁ、丁らしいけどね』



そう言い頭を撫でると、丁は心地良さそうに目を細めた。







人魚にとって、とても幸せな時間 。






  
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -