『兄さーん! 牛乳なくなっちゃったよー』
「そうか。昨日卵もきらしたしな…」
『ボディーソープもきれちゃったよね』
「じゃあ、買い物行くか」

 そんなこんなな会話で、Let’sショッピング!ちょっとだけウキウキしているのは、引っ越してきてから初めての買い物だからかもしれない。でもやっぱり大型デパートとかで買い物するのは女子としては楽しいと思う。あれ?私だけじゃないよね?

「服とか見るか?」
『え、いいの?』
「ああ。だって、少しは気になっているんだろ?」
『兄さんはなんでも分かってるんだね』

 そういうと、兄さんは「俺はエスパーなんか使えないぞ?」とクスクス笑った。ていうか、兄さんってスタイル良いし、顔も良いし…外見も中身も抜群にいいもんだから、おばちゃん達やお姉さん達の視線が痛いくらいに浴びせられているんだよね。だけどそんなの完璧にスルーするとことか、凄いと思う。うん、兄弟達の中では一番まともで尊敬しているし頼りになるしね。だけど隣を歩く私がどう見られているのか、それは分からないのでちょっと怖いかな。だって睨まれているような気がする。

『はあ…』
「どうした? もう疲れたか?」
『ううん…、なんでもないよ』
「そうか。でも少し疲れたろう? 休もうか」

 兄さんはふわりと微笑んで、近くの喫茶店に入る。この時間帯だから、あまり人は入っていない。メニュー表を見せられて、色々悩んだけど無難にミルクティーを頼むことにした。兄さんはブラックコーヒー。よく飲めるよなあ、って感心する。私は口付けただけでうげぇってなっちゃうからね。兄さんは大人だなあ、ってつくづく思う。それに日が増すごとに父さんに似てきた。中身も、外見も。これは苦労するだろうな。ああ、そういえば兄さんに聞かなくちゃいけないことがあったんだっけ。

『あのさ、』
「うん? どうした?」
『…なんで、街中にうじゃうじゃいるわけ?』

 その一言に、兄さんはくっと苦笑を溢す。多分だけど、主語が抜けているから兄さんは苦笑いを浮かべたんだと思う。兄さんは優雅にカップに口をつけて一拍置いてから口を開いた。

「やっぱり、気づいたか」
『気づかないわけないよ。あんなに大量なの初めて見た』
「ここ最近、かなり不調でな」
『不調…?』
「ああ。秀吉さまが、な」

 その名前が出てきたことに私は驚く。「豊臣秀吉」の生まれ変わり、木下秀吉さんはここ大阪を今も統治している。特に大阪全体に結界を張り巡らせているのは彼とその部下たちであり、大阪は彼らによって護られているといっても過言ではない。その秀吉さんが不調とは、一体どういう事なのだろう。

「俺の見た所では、呪詛、の可能性が高い」
『! 呪詛、って…』

 まさか、と言いたくはなったが必死に言葉を押さえこむ。この21世紀にも呪詛は存在する。だけど、呪詛が存在すれば呪詛返しも存在しており、私たちも何度か呪詛返しはしたことがある。それがまさか、秀吉さんだなんて。

『相手は…』
「まだ分からない。この大阪の乱れの所為で、完全一致が出来ない状況だ」
『そんなっ…』
「今はねね様や子飼い衆が必死に動いている。まだ、大分もつ状態ではあるだろうけど」
『………』
「ん? どした?」
『ねね様、は分かる、と思うけど…子飼い衆って、…誰?』

 兄さんはそれにぱちくりと目を丸くして、何度か瞬いたあとカップをソーサーに置いた。そして「本当に分からないのか?」と意味ありげに訊ねられたが、本当に分からないものは分からないので首を横に振る。

「まあ、覚えてないのも、当然か…」
『会ったことがあるの…?』
「ああ、一度な。といっても、お前はまだ3つだったから覚えてるはずもないか…」
『うん、ごめん…』
「いや。子飼い衆っていうのは、彼の部下である六条三成・竹松清正・清須正則のことだ」

 「戦国名で言うなら「石田三成」「加藤清正」「福島正則」だな」と丁寧に説明してくれた兄さん。なんとなく、だけど歴史名で言われたから分かった気がする。そんな凄い人たちと関わりを持っている家って一体…なんなんでしょう。まだ私だけはなにも知らない。皆、誇りを持って仕事をする。それは私も一緒だが、家の歴史をちゃんと話して貰った事はまだない。一人だけ仲間はずれ、というわけじゃなくて時期が来たら話してくれるみたいだけど、早く教えて貰いたいのも事実だ。

『今度、挨拶に伺わないと、いけないよね…』
「そうだな…一度お前が来る前にお伺いした時、お前の話をしたら会いたがっていたからな」
『ああ…覚えていないのに、申し訳ない』
「ははっ。それもそうだな」

 なんて話をしていた時、「おっ」という見知った声が聞こえた。声の方を振り向いてみればそこには准さんがいた。准さんは店員さんをガン無視でこっちに来て、兄さんの隣に座った。兄さんは若干不服そうな顔をしているけど…。

「こんなとこで会うなんて偶然やなあ」
『こんにちは、准さん』
「おう。こんにちは、名前ちゃん。ってか柊は思いっきり不満有り気やな」
「なんで店が休みの時にまでアンタに会わなきゃいけなのかと思いましてね」

 毒舌解禁の兄さんに、准さんはかなり凹まされたみたいでテーブルに突っ伏してしまう。そんな様子に私は苦笑してメニュー表を手渡した。それだけで立ち直ってしまう准さんも准さんだと思うけど。准さんはカフェオレを頼んで、頬杖をついて私に笑いかけた。

『…? どうかしました?』
「いや。名前ちゃん、うちの弟に会わんかった?」
『え…?』
「この間、弟が視える奴におうたって言うててな。もしかしたら思うたんやけど…」
『…もしかして、財前光って名前だったりします?』
「お、やっぱり名前ちゃんおうたみたいやな。そや、それが俺の糞生意気な弟」

 そういった准さんに私は笑ってしまう。男兄弟って喧嘩も多そうだし、年が離れていれば余計に溝ってものがありそうだから。それにしても、よくよく見れば兄弟揃って美形だしなんか目元とか似ている感じがする。私もよく柊兄さんとは似ているって言われたことはあるけどね。でもやっぱり一番似ているのは母さんとだ。

『でも凄いじゃないですか。あの年にして上級の式鬼神を従えているなんて』
「ああ…切な。あれは従えたいうより、切の方から頼みにきたんや」
「…なんだか、翆輝と似ているな」

 ぽつりと呟いた兄さんに私は小さく頷いた。翆輝は私が最初に下した式鬼神だけど、彼自身が私に頼んだのだ。だからとても境遇が似ていた。まあ、そういう風に自分から頼みに来るなんて滅多にない、というかほぼ皆無である。

「まあ、切には感謝してる。光を護ってくれてて、俺らの目のいき届かないとこまでちゃんと見ててくれるからな」
「ある意味それは監視役、というか子守じゃないですか」
「否定は出来へんな」

 そういって苦笑いを溢した准さんは私に向き直る。そして「弟と仲良うしてやってや」と柔らかな笑みを浮かべた。それに私は小さく笑って「はい」と答える。境遇の似ている人間としてはちょっとだけ親近感が沸く。転校最初の友達は、彼かなと私は思いながらその後楽しい談笑をしたのであった。




ALMIGHTY/現連載ホラーの基的なものD



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