それから日はあっという間に経ち、新入隊士入隊日となる。
 誠都守護職――夜狼組。誠都の治安を考慮し作り上げられた武装組織の本拠地・士榮館(しえいかん)。
 ひ、ふ、み……と紙面に縦一列にずらりと並んだ文字の塊を数えながら、名前は士榮館の入り口である門前に立っていた。その傍ら、彼女と背丈の変わらない明るい頭髪の青年――童顔とその背丈ゆえに少年に間違われがちな永倉新八・二十四歳は大きな欠伸を噛み殺した。

「来る気配がちぃーっともないんだけど。初日早々団体遅刻とはいい度胸だぜ」
『集団迷子でしたら、笑い話ですね』

 ふふふ、と可笑しそうに笑う名前に「そりゃないデショ」と、彼もまたつられたように笑った。四月上旬。まだ三月の肌寒さが残る、晴れ渡る空が清々しい。漸く人数を数え終えた名前は紙面から視線をあげると、永倉同様に門の向こうを眺めた。

『三十八……今年の新入隊員は四十人弱とは、例年にない大人数ですね』
「去年は散々だったからなぁ。年末には負傷者続出だし、それもあるんじゃないの?」
『成程…。今年は何人残りますかね』
「さぁねぇ」

 でも、と永倉は名前に視線を移して続けた。

「いまからそんな先のこと心配してたってしょうがないデショ。いまは出迎えなんだから、もうちょい明るくしよーぜ」
『…そうですね』

 永倉の言葉に同意を示した名前に、彼はふっと笑って頭の後ろで手を組んだ。

「ていうか名前、今日異様に早起きじゃなかった? 明け六つ(午前六時)より前に起きてたって総司に聞いたけど」
『ああ…山崎さんに稽古つけてもらっていたんですよ』
「稽古?」
『ええ、化粧の』

 監察方もこなすなら、見てくれの化かし方くらい覚えなきゃ駄目だって言われてしまいまして。とそのときのことを思い返して微苦笑を浮かべる名前に、永倉は「そりゃ大変だ」と軽快に笑い飛ばした。名前もそれにつられて笑えば騒がしい声が門外から聞こえ、二人ははたと笑うのをやめて視線を交わした。そして二人揃って門の外へと踏み出せば、ぞろぞろと乱れた列をなしてやってくる新入隊士達を見つけ、永倉が「お前らおっせーぞ!」と声を張り上げた。
 それに気づいた彼らは小走りに駆けてくると、二人の前で立ち止まり「申し訳ありません」と頭を下げた。「こんな入り組んだ地形だとは思ってもみなかったんで…」その一言に、永倉が苦い笑みを浮かべて隣の名前を仰ぎ見れば、彼女はくすりと笑った。

『ほんとうに集団迷子だったとは…』
「名前ちゃんの言ってたことが真になるとはね…俺もビックリ」
『ふふ、だってわたしも最初迷子になりましたからね』

 そんな和やかなやりとりをしていた二人に「あの…」と控えめに声がかけられる。それに気づいた二人は「ああ」と納得して彼らへと向き直った。

「とりあえず初日だし、大目に見るけど……今度遅刻なんてしたら切腹だかんな」
『いまの時代切腹はないでしょう』
「揚げ足とらないの。そんで、まあ、ようこそ諸君。俺は二番隊隊長を務めている永倉新八!よろしくな! んでこっちが補佐の、」
『名字名前です。入隊おめでとうございます』


ピスメ×etc...で自警組織A



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