■
「遠野さん」
後ろから呼ばれた名前は、くるりとそのまま振り返った。そこにはにっこりと微笑むテニス部の、いや立海の魔王様こと幸村精市がいた。
『なに、幸村君』
「ちょっと聞きたい事があるんだけど、いいかな?」
『え、ああうん。答えられる範囲なら』
「うん。じゃあ早速だけど遠野さんに手伝ってほしいことがあるんだよね」
魔王様と!『
………はい?』
珍しいこともあるものだ、いや恐ろしいことと訂正した方がいいかもしれない。と名前は引き攣った表情を浮かべて訊ね返した。それに幸村はニコニコと笑っているままだ。
「うん、手伝ってほしいことがあるんだ」
『いや、わたしが手伝えることなんてこれっぽっちもない気がするよ』
「大丈夫大丈夫、遠野さんなら簡単だから」
『
いや、わたしこれでも普通なんだけど』
「あは☆ それもそうだね」
「いやー、人間離れしているからついねー」なんて言っている幸村に対して名前は更に表情を引き攣らせた。人間離れしているのはアンタの方だろう、だなんて恐ろし過ぎて口に出せない。
『それで、いや、わたしにどうしろと?』
「うん…。最近真田の鉄拳数が少なくなってきたから遠野さんに制裁してもらおうかなーって」
『
…は?』
「いやー、この前の練習試合で丸井が怪我したり、赤也は試合に負けたりって酷かったんだよ。真田は怒鳴るだけだったし、久しぶりに体裁でもして喝を入れようかと」
『て、体裁…?』
にこにこと笑みを崩さない幸村と、もう表情が歪みつつある名前。だがこれは幸村の方が上手だ。
「うん。あ、遠野さんって何が得意だったっけ? サソリ固め? あ、キャメルクラッチも、でもスープレックス技もできたよね?」
『う、うん…まあ、取りあえずはできるけど、さ。体格差が酷いと出来ないっていうか…』
「そうだよね、遠野さんちっちゃいもんな。
…使えない」
『
おい今なんつった。ちゃっかり本音でてんだけど』
「気にしない気にしない☆」
『
なんでも☆つければ済むって問題じゃないだろ』
「じゃあ俺に伝授してくれればいいからさ」
『無理。無理です魔王様に技仕掛けるなんてそんな末恐ろしいこと出来るわけないじゃないですか』
「君も何気に失礼だよね」
『不躾けの文句は兄に言って欲しいね。アレの所為で今のわたしが出来上がったんだからさ』
「スルーもいい度胸」
『
別にスルーしたつもりはないけど!?』
そしてこの後延々と口論がなされ、結果、二人でテニス部へ体裁を銜えることになりました。By, 名前
11/11/13
暴れん坊な遠野妹が立海でわちゃわちゃA