腐りかけた世界の中で

私ならなんといって週末へ誘うのだろうか










いつかの場所で、サヨウナラ。




パシッ パシッ

 一定の音を立てながら宙へと投げているのは、どこにでもあるようなキャンディの入れ物。この50年で、かの地は大きく変化を遂げたらしい。そんな情報が入り、自ら目にしたのはつい先日のこと。だからと言って、自分は巻き込まれる気も、介入する気も無い彼女はまるで椅子に座るかのように宙に腰をおろしていた。


『こっちは平和で何よりっていうときにねー…』
「あちらさんは厄介事、面倒くせぇ」


 突然気配と姿を現した男子制服の彼は彼女の隣に立っていた。彼女はそれに驚くことなく「龍」と彼の名を口にした。


「ちょっと痕跡辿ってきたが、ま、俺らにゃ関係ねぇな」
『…ま、そうだろうね。普通の虚なんぞに一々関渉してらんない』
「だから退屈すぎんだよな…。あ、シュリーカーの時は別だったか」
『ひっさびさの獲物だっつーのに…こっちが連絡入れる前に勘付きやがった』
「そう怒んなさんな。あれは不可抗力だ。にしても、いい金蔓だったんだがな」


 そういい肩をすくめた龍こと、英龍は彼女の隣にしゃがんだ。


『まあ、金額はそこそこ、5000って。それに、金金言ってる守銭奴にはなりたかないね』
「同意」
『今は、久っしぶりに顔覗かせた奴さんのことが、気になるから、』


 「ねぇ、平子に猿柿」という台詞の直後、背後に二つの気配が降り立った。彼女は無表情のまま、ゆっくりと彼らの方を振り返れば彼らは怪訝そうな表情をしていた。


「何年ぶり、やろなァ、名前」
『………忘れた』
「連れへんやっちゃなァ。ま、なんも変わらんくて良かったわ。相変わらず名前で呼んでくれへんし」
「真子、何普通にコイツらと会話しとんねん。コイツらに関渉することはいけへん筈や」
「わかっとるがな。けど、俺らは追放された身やし、別に関わってもええんちゃう?」


 彼女――名字名前に同意を促す平子に名前は小さく鼻で笑った。元々、彼女達と護廷は直接の関わりを持ってはならないのが掟。だが、尸魂界から追放された自分達ならもう関わりを持っても大丈夫だろうと平子は考えたのだ。


『好きにしていいよ。こっちは50余年前からあっちとは連絡とっちゃいないからね』
「…なんやて?」
「マジな話だ。まぁ、あっちの出来事は遊が流してくれてっからなんとかなってっけど」
『それでもあっちもこっちも平和だから、私らの出番はない。――もう隊も存在をなさないかもね』


 「それじゃ、困るんだろうけど」と小さく呟いた名前は手に掴んでいたソウル*キャンディを見つめた。それを見ていたひよりと平子の目が細められ、龍は「まあな」と小さく溜息をついた。


『…今回、私らは関わるつもりはないよ』
「…正気か」
『正気も何も、それが私達の仕事じゃない。ましてや、頼まれてすらいない』
「……現世も尸魂界も巻き込むんやで?」
『だから、どうした』


 酷く冷たく言い放たれた言葉は鋭い刃のようだった。その刃に自身の刃をぶつけようとしたひよりは平子に止められる。


『…本来なら、私らも参加、これじゃ行事みたいだな…参戦しなきゃいけないんだろうけど。私らは処刑執行人。全ての罪を引き受ける者であり、洗う者。だからといって上からの命令なしに処刑は出来ない忠実な執行人さ』
「…真子、悪いが今回は引いて貰う」
「……あとから後悔したって知らへんで」
『生憎…後悔なんて、一度もしたことがないよ』


 そう名前が返事をした直後、背後の気配は瞬時に消えた。龍はそれを見送った後、名前へと向き直った。


「高みの見物、か」
『言いたかないけどね。四十六室は全滅。総隊長からは連絡一つなし。おまけに、翁が頼ったのは死神代行。…これじゃ、存在否定に近しいよ』
「…霊王は、」
『あの方の真意がわかる者がいるか?』
「…それもそうだな」
『一件落着するまで、大人しくしていよう。最近じゃ、地獄の様子もおかしいようだから』
「久しぶりに仕事が来そうな予感だ」
『同意』


 そういって二人は空を見上げた。早くなる雲の流れは不穏、だが二人にとっては最早どうでもいいことだった。




2011/12/12

怠惰な処刑人は関与しない



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