三木くんと並んで帰る帰り道。なんだかとても新鮮な感じがする。いつもは一人で帰ってるし、たまに鉢くん達と帰ったりする。でも三木くんと帰るのはこれが初めてだ。

「ん?どうかしたか?」
『んーん、なんでもない。そういえば三木くんさ、今はなににユリコとかサチコとかって付けてるの?』
「今か?今は愛用の筆記用具に付けているぞ」
『あははっ。今も御健在だね、そのネーミングセンス』

 でもあまり人前でハアハアしたら危ないアイドルだろうけどね。とは口には出来ずに内心で呟く。相変わらずの端正な顔立ちなので一緒に歩いているとなんだか恥ずかしい。そう思っていると、ふと見覚えのある髪。

『綾くん!』
「ん?ああ、名前とみっきー」
「誰がみっきーだ、誰が」
『いいよねえ、みっきー。悪くない響きだよ?』
「某都内ランドのキャラクターとは違うんだからな」
「あ、そう言えば被ってたね」

 「全然気づかなかった」と綾くんはいつも通り表情を崩さずに言った。淡々としているので楽に話しやすい。
 綾くんは女友達よりもかなり仲が良いと思う。だってキャーキャーするわけでもないしね。付き合いはそんなに近くもなく遠くもない普通の距離を取れる人間がいいんだ。

『綾くん、今日は珍しく早いんだね』
「んー、今日は名前に会える気がしたから」
『あはは。何それ』
「相変わらず喜八郎はなにを考えているか読めないな」
「そういうみっきーもね」
「だからみっきー言うな」

 三木くんはそういって鞄を持ち直した。そして私は二人の間に挟まれて帰路につく。これって逆の両手に華? なんだか少し恥ずかしいなあ。

「名前ちゃん、最近笑わなくなったよね」
『…へ?』
「無理して笑ってるでしょ」
『え……』

 綾くんの見透かすような瞳に、私は動けなくなってしまった。この綾くんの強い眼差しは、よく私の心を見抜く。それが怖いのは、今も昔もなにも変わりはしない。

「辛いんじゃない、きっと」
『…綾くん』
「喜八郎!それ以上は…っ」
「七松先輩のこと、引きずりまくってる」
『っ!!』

 気づかなかったわけじゃない。わかってる、まだ諦めきれない「すき」という気持ちを抱えていること。引きずったまま、彼女のいる先輩をずっと見続けている。好きなのに、先輩の記憶を取り戻させたくないと。取り戻した後に、自分がどう変わってしまうのかさえ、怖がっていた。

「いいよ、それで」
『…え』
「名前ちゃんが、それでいいならね。ただ、名前ちゃんから笑顔が奪われるなら、私が七松先輩を殺す」

 この時代に、随分物騒な事を言うものだ。そう思ったら、小さな笑みがこぼれた。

「喜八郎!お前ッ」
『いいよ、三木くん。大丈夫。綾くん、ありがと』
「名前…」
「私は本気だから」
『うん、知っている。滝くんに三木くんにタカくん、ましてや綾くんにまで心配されているなんて…ほんと迷惑かけっぱなしだよ』

 最低、と小さく呟いて空を見上げた。
 夕暮の空に浮かぶ太陽はなにを思って沈むのだろう。私は、ただあの人の幸せを願って沈んだ。だから、あの人がその後、どうなったかなんて知らない。誰も、知らない。だから私は不安なのだろうか。この不安定な空と、同じように。



110903

転生しても前世のあの人が忘れられないD



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