清花はまず手始めに四天宝寺全員のお守りに不備がないかどうか確かめると、再度鞄の中から怪奇現象対策の品々を取り出して広げれば、その量の多さに思わず彼ら(財前と花菜を除く)は顔を引き攣らせる。
 先ほど取り出した護符を除いても、清め水が入った500MLのペットボトルが二本と小さな小瓶のものが五つ、ジャムのガラス瓶に入った清め塩、数珠のブレスレットが二つ、銀でできた十字架のネックレス、ペンライト、聖書、経典、魔導書、分厚いノート(中にはびっしりと書かれた知識や経験等)…といった数々が出てきたことにより「合宿よりも本格的な下準備や…」という言葉は誰からか発せられることになった。



「よくもまぁ…こない大量のもの持ってきてたな…」

「何言うてんですか。こいつ毎日これ持ち歩いてんですよ



 財前の爆弾発言に流石に言葉を失って硬直する謙也に、花菜が「あれ、先輩武器は?」と尋ねたことにより武器!?と更に驚く羽目になる一同。清花はそれに『いま出すよ』と口にして右耳の太極図ピアスのキャッチ側についている扇型の飾りに触れれば、ぼうっと彼女の目の前に白い炎の玉が現れ躊躇いなくそれを握る。すると炎は細長く伸びていき形を形成して、日本刀――小太刀となる。



「銃刀法違反んんん!!」

「あかん、待って、ついていけへん…」

「リアルドラ●もん」

「あっは、先輩酷い言われようですね。今日は錫杖じゃないんですか?」

『浄化メインなら錫杖でもいいけど、そうも言ってられないし使い慣れているものがいいからね。あと錫は急なお呼び出しでおしゃかになったからフェレス卿に修理費請求して治してもらってるよ』

「あかん、いまの清花ちゃん見たら無敵にしか思えんわ」

「俺もや」



 新たなる後輩の一面を見たことによりまた最恐説の中に加えられることになったことは余談である。一方話し終えたらしい麗が氷帝の面々を従えて四天宝寺の元へやってくると、彼らもまた「刀!?」「ちょ、どっから出した!!?」と驚愕の声を上げることになった。見慣れた反応に苦笑しながら彼女は数珠を腰に巻きつけてベルトのようにしながら跡部へと声をかけた。



『跡部さん。この屋敷の見取り図ってありますか?』

「おそらく使用人部屋にあったはずだ」

『じゃあ取りに行かなきゃ駄目か…わかりました、ありがとうございます』

「なぁ、麗……お前の友達、いったいなんなの?」

「あら言ったでしょ、その道のプロだって。陰陽術、修験道、巫術、呪術、悪魔払い、色々な知識を持ち合わせているだけじゃなく、剣道に空手、柔道合気道弓道等のあらゆる武術も嗜んできているんだから」武術の一言に日吉が一瞬反応を示す。

「つまりはお前よりも更に上をいく怪物ってわけだな…」



 うわあ、とんでもない奴に出くわしたとでもいうように顔を歪める氷帝陣に清花は大して気にすることもなくおかしそうに笑う。
 彼女は家柄がそうであったから学んだのはそうだが、きちんと自身の意志を持って自ら望んで学んだことに偽りはなかった。並みの男よりも強くなったことを嘆きはしなかったが、女なら誰しも一度は抱く“守ってくれるひと”の存在は期待できないことに気づいた。だがもう一つ、“守ってくれるひと”は体を張って自身を守ってくれるのではない、精神的に支えてくれるような二人で歩んでいけるようなひとのことを言うのだ、と気づいた。だから会得した力を存分に振るうことができるのだ、と。



『じゃあ、これから行うことについて話し合いましょうか』





――――――――――

――――――――

――――






『では、よろしくお願いします』



 まず原因を探るには現状の把握から。その為にまずこの屋敷の見取り図をとりに向かい、そこからは各部屋の探索をして脱出の鍵となるものを見つけることになった。
 使用人部屋の場所を把握しているのは跡部のみで、彼を含めた見取り図をとりに行く班分けは清花・忍足・滝・謙也・小春となった。少数精鋭なのは、最初から下手に大人数で歩き回って対処できない事態が起きることを防ぐためだ。班の編成メンバーとしては頭の働く忍足や滝・小春に加え、いざというときにいち早く見取り図を持ってホールへ戻り連絡係になる謙也といった具合になる。



「みんな気ぃつけるんやで。あとケンヤは清花の足を引っ張らんようにな」

「誰が引っ張るかぁ!」「謙也クンのことはアタシに任せといてねっ」

「跡部、さん…滝さん…無事、の帰還、待ってます…」

「二人共、ちゃんと帰って来いよ!!」

「当たり前だろうが」「ふふっ、そうだね」「なぁ、俺は? 俺は?!」



 ダブル忍足の不憫な見送りを終えて、清花はぎぃと扉を開いて廊下へと出る。ホールを出て右手に進み、更に突き当たりを左に曲がって少し進んだところに使用人部屋があるという。ホールの中は明かりが点いているが、廊下に出れば辺りは薄暗いため遠くまでを見ることはできない。各々は携帯端末を取り出すとライトを点けて使用人部屋へと一歩を踏み出した。ひやりと肌を撫でる冷たい空気は春の温暖とは思えないほどぞっとする。



「清花、何か感じるか?」

『…今のところは何も。慎重に進みましょう』



 それぞれに一枚ずつ護符を渡して清花は歩を進める。足音のみが響く、真っ直ぐと続く廊下の左右を確認しながら進んでいけば何の障害もなく突き当たりが見えてきた。あとは左に曲がれば使用人部屋はすぐそこだが、そこで一度清花は足を止めると持っていたペンライトを曲がり角に向かって投げる。
 カン、カッ、コンッと音を立ててペンライトは先端だけが見えるように曲がり角の先で落ち着いた。気配と音がしないのを確認して、清花は背後に控える彼らに頷いて見せてペンライトを拾って先へと進む。跡部が「ここだ」と扉をライトで指し示したので、彼女はそのドアノブに手をかけて、そして勢いよく扉を押し開けた。



『……大丈夫、ですね。皆さん中に』



 中へと全員を招き入れて彼女は内鍵をかける。跡部が明かりのスイッチを押せば問題なく照明が点いたので一同はほっと胸を撫で下ろした。



「あった、見取り図だ」



 壁に貼りつけられた見取り図をべりっと剥がした跡部は壁に掛けられていた鍵束も掴み取る。壁に耳を押しつけて外の様子を窺っていた清花は気配がないことを確認し、『少しこの部屋の探索を行いましょう』と机の中などを物色し始める。それに倣って彼らもまた手当たり次第に至るところを調べだした。十分ほど隅々まで探索を行った結果、見つかったのは見取り図・鍵束・懐中電灯×3・非常用蝋燭とマッチだけだった。



「あんまり目ぼしいもんはなかったなぁ」

「でも懐中電灯や蝋燭があったのは良かったよ。携帯の電池を無駄遣いしなくて済むしね」

「せやなあ。んじゃそろそろ戻るか」

『いや、………少しだけ待ってください』



 しぃぃい、と口元に人差し指をあてがった清花は、右足を扉に押しつけ右手をドアノブへと添えて体は壁へ預ける。それにぎくりと体を強張らせた彼らは息を殺すように掌で口を覆い、そっと壁際へと移動した。



……シュル……シュルル……



 這うような音、だと清花は思った。衣擦れのような、それでいて速い音。足音には感じられないということは歩いていない奴の可能性が高い。人の為りをしたモノか、それともアヤカシのようなモノか。どちらにしても直視したら明らかに(彼らの)心臓が凍りつく奴だろうと推測し、素通りしてくれることを願う。



シュルシュル……シュル……



 扉の向こうを移動する音の近さに居心地の悪さを覚えながらも集中するために神経を研ぎ澄ます。すると「ジジジ…ジジッ……」と奇妙な音が混じっていることに気づき、彼女の脳裏に先程倒した化物の姿が浮かび上がる。

 ――もう一体、いたのか。

 しかも本性全開の完全体の姿だろう。あの音は床を這う長い胴体のもの、それに混じった音はおそらく舌を鳴らすものだ。名付けるとすれば、



『へびおんな』



 答えは明白だ、ここから逃げることはできない。戦うしか、手立てはない。





探索開始

第三章 刺客




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