「有名なんですね…」



 花菜がそうぽつりと呟くと、小春は神妙な面持ちでそれに頷く。



「そや。でもな、有名なはずなのに、誰もみたことあらへんのやおかしい話やろ?」

「誰も、見たことがないん? そらおかしい話やなぁ」



 一氏の言葉に賛同する四天宝寺一同。それにメリーさんと花子さんは一度視線を交わすと話を続けた。



「その櫻の木の主が、隠しているっていうか………ねぇ」

「力を流出させないように防いで姿を隠している。よほど力のある人じゃなきゃ視ることは不可能ね」




 そういい、花子さんは清花へと視線を向けた。



「伯爵は、もう視たかしら?」

『いえ。昨年もですが、一切視てはいないかと。今回七不思議の調査をするにあたって資料として知ったくらいですし…でも、妙な気配は感じました』

「かなり仕事のエキスパートやんけ」



 感心のそぶりを見せる謙也に清花は曖昧に笑って見せ『幼い頃から父や祖父に付き添って色々やってきていますし……。実体のある丑の刻参りとかの方が楽なんですけどね…』と遠い目をしながら口の中で呟く。その小さな呟きは白石達には聞き取れなかったものの、なんとなくで感じ取った花菜が「色々ありましたもんね〜」と良い笑顔を浮かべる。



こっくりさん言いくるめとか口裂け女と女子会とか、化け猫お灸据えとか廃病院肝試しフルボッコ事件とか…あ! あと麗先輩と神隠しに遭ったこともあるんでしたっけ?」

『花菜…思い出さなくてもいいから。それに咲舞達の女子会に烝も参加してたからね』

「おい……おい…」

「お前は生まれてからの十四年間一体何を経験してきたんや…」

「それなら私と花子の麻雀乱入した挙句勝利を決めたのはバナナの皮事件も捨てがたいわ」

「ナニソレ内容超気になるんやけど」

もうそれ以上わたしの黒歴史掘り返すのやめてください

「そうね、話が逸れちゃったから戻すけど。主探しは伯爵頼りで探すしかなさそうね」

「それってある意味、囮というか犠牲というか…」

「「まあ、その通りよ/ね」」



 千歳の言葉に花子さんとメリーさんは口を揃えてキッパリと言い切る。それに当事者である清花を除いた一同は戸惑いの表情を浮かべ、花菜が顔を顰めて否定を述べる。



「い、嫌ですよ! 先輩を囮にするなんて! せめて別の方法でやりましょうよ!!」

「花菜はんの言う通りや。仲間を犠牲にしてまで助かりたいとは思わへん」



 清花はそれに苦笑いを浮かべ、窘めるように言った。



『とりあえず皆さん、落ち着いて下さい。皆さんの気持ちはよく分かります。けどわたし以外に適任はいませんし…』

「ダメや! 姉ちゃんにやらせるなんてワイは絶対反対や!!」

『あはは……、まあ、わたしはもう何度も経験を積んできているし、毎度囮に抜擢されていたんで慣れているんですよこういうことには』



 はははは、と笑う清花の瞳は笑っておらずむしろ炯々と輝いていた。そんな彼女に同情するように黙り込むの中、白石がやれやれといったように肩を竦めて仕方ないと笑みをつくる。



「しゃーない。ここは経験者の意見を優先するしかなさそうやな」

「ちょ、蔵リン…!?」

「仮にも女子を囮にするんは…!!」

「謙也さん、仮にもって…一体コイツんことなんやと思ってるんです」

『それはわたしも聞き捨てならないんですが。ケ ン ヤ さ ん ?

「うわぁ…すっごくいい(黒い)笑み〜…」

申し訳御座いませんでした清花様

「まぁ、ケンヤのことは放っといてもええとして。清花は危なくなったらそれで防げるやろ?」

「それ…」

「ってのは冗談で」

(((じょ、冗談に聞こえへん/んと/ない……!!)))

「俺達ド素人がどうこういって足手まといになってしまっとったらアカンやろ。こういう時はプロに任せた方がええ。ただし、清花。お前はうちら四天宝寺テニス部のマネージャーってこと、忘れるんやないで」

『肝に銘じておきます』

「なら、ええわ。危ないって思ったら迷わず逃げるんやで」

『了解しました』



 清花の返事に満足そうに頷いた白石。その横で財前がひっそりと嘆息すればそれに気づいたメリーさんがくすりと笑って彼へと耳打ちする。



「だいじょうぶよ。伯爵は、約束はきちんと守る主義だから」

「…そういう問題やない」

「あら。じゃあどういう問題かしら?」

「………、」



 くすくすとからかうメリーさんに財前は押し黙り、様子を見守っていた花子さんが「メリーったら…」と肩を竦めると清花は不思議そうに『どうかしましたか?』と首を傾げる。それに「なんでもないわよ」と花子さんは返すと、ちらりと手洗いの前にある鏡を一瞥する。瞬間ゆらりと鏡面が揺れたことに険しい表情になる花子さんに、清花も気づいたかのように表情を引き締める。



「さて、そろそろ出発した方がいいんじゃない? 時間も、だいぶ押してきているわよ」

「あれ? 花子さんは、一緒に来てくれないんですか?」花菜の一言に、花子さんの表情が一瞬曇る。

「私の動ける範囲には決まりがあるのよ…一応、地縛霊だから、ね」

「…花子さん」

「それに………いまからメリーと丁半勝負よ!!

「そっちが本音やろ絶対!!」



 シリアスな雰囲気をぶち壊す花子さんのキラキラとした眼差しに謙也は思わずツッコミを入れずにはいられなかった。それにメリーさんも乗り気でギラリと目を輝かせる。



「うふふ、望むところよ花子! みんな、途中退場でごめんなさいね。でも頑張って。またいずれ出会う機会があるでしょうしね」

「できれば二度とこんな目にはあいたくないんやけど…」

「まあ、メリーさんには命救われたしな。おおきに」

「また絶対会おうや!!」

「ふふっ、楽しみにしているわ坊や達。それから伯爵。あんまり無理しちゃだめよ、いつでも頼って頂戴な」

『愉快犯な貴女達なら何でも御見通しでしょうに。…でも、今後共よろしくお願いしますね』

「ええ、こちらこそ。それじゃ、御武運を」



 そう花子さんが言うと自動的にトイレの出入口の扉が開き、清花達を送り出してくれる。花菜と金太郎は花子さんとメリーさんに笑顔で手を振り、一同はその場を離れた。



「それで、これからどっちに向かうとね?」

「体育館か華月のどっちか、やな…先に華月にでも行っておくか? そっちの方が近いし」

「せやね、ちゃっちゃとすべて解決させましょっ」

「よし! やったろか!」



 おー!!と意気込む一同を横目で眺めながら清花は乾いた笑みを浮かべ、また財前は若干顔を引き攣らせる。その視線は彼らではなく、その背後に向けられている。



『そうですね…、ですから』

「後ろに迫ってきているモノから逃げましょか」



 その二人の言葉に一同は「え」とピタリと足を止めて体を強張らせる。そしてぎぎっと音を立てるように首を後ろへと回すと、そこには沢山の白い手が此方へ向かって伸びてきていた。



「ひっ…!!」

「マジかいなっ!!」

「ということで、逃げよか」白石の号令と共に一同は一斉に走り出した。

「もうなんでこういう展開なのぉおお!!

「元気やねぇ、花菜ちゃん」

「叫ぶ元気はあるんやな」

『一難去ってまた一難、か』

「ホラーならお馴染みの展開って奴やろな」

『無事帰れたらホラゲでもやりますか?』

「「「やらん」」」





七つ目の情報

第二章 四天宝寺の怪談




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