掌編小説 | ナノ


▼第五十一夜 「新しい洋服」

任務で里を離れたときのこと。

波の国は、今は立派な橋がかかって、色んな物が流通している。
けど、ほんの少し前までは…悪い奴らに海上権をにぎられていた。
ほとんど鎖国状態と言ってもいいくらい。
食べ物すら不足してるんだから、衣類なんてもっとなかったと思う。

それなのに、買い物の付き添いで町に行ったとき、こんな光景を見たの。
一人の女の子を友達と思わしき子たちが取り囲んでいる。
女の子がくるりと回ると、若草色のワンピースがふんわり広がった。
羨ましがる声が聞こえてきて、新しい洋服をお披露目してるんだと分かった。
確かに似合ってはいたけど、私にはそれが古着に見えた。

夕食のときに、私そのことを話したのよ。
そうしたら、大人は黙って苦笑い。
なんでだろ。
首を傾げた私に、依頼人の孫がこう言った。

新しい服なんか手に入りっこないよ。
それはおさがりだ。
またこの国で子供が死んだんだ。

――小さな子に教えられるまで…そんな考えに及ばなかった自分が、すごく、すごく、恥ずかしかった。

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