掌編小説 | ナノ


▼第五十二夜 「的に当たっているモノ」

昔はよく、演習場で手裏剣の練習をしていた。
四方の木に狙いをつけ、立ち位置から死角となる場所にも的を取りつける。

さすがに死角ともなると直線的な動きだけでは当たらない。
複数の手裏剣を同時に投げ、軌道を変える。
手本を見せてくれる相手はいない。
コツをつかむまで根気強く続けるしかなかった。

そして日が暮れるまでの修行を毎日こなし、とうとう手裏剣が的を捕らえた。
…と思ったが、聞こえてきたのは鋭い金属音だった。
回り込んで的を確認する。
そこにはクナイが刺さっていた。

どうやらオレの投げた手裏剣が当たる前に、誰かが勝手に的を使っていたらしかった。
しかし的は毎日回収していた。
つまり、オレが修行をしている最中に、何者かがクナイを打ち込んだのだろうが…。

誰が、なんのために?
なぜ気配がしなかった?

疑問は沸いたが、答えてくれる人影はない。
そのまま気にもしなかったが、修行を続けていると、同じようなことが何度か起きた。
だからある日、的を回収せずに、クナイに手紙を結わえて家に帰った。

お前は誰だ。

その疑問は確かに届いたようだった。
翌日、手紙だけを持ち去った何者かは、もうオレの的を勝手に使用することがなくなった。

…まだ幼かった頃だから、それだけで安心しちまってた。
だが今になって思うんだ。

そのクナイはいつも、死角の的にだけ刺さっていた。
つまり、オレの背後を取っていたというわけだ。
何度も、何度も、武器を持った相手に、後ろを取られていた。

――もしそいつが、クナイを使わないだけで、今もオレの後ろにいるとしたら…。

- 56 -

prev / next


back

[ back to top ]


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -