掌編小説 | ナノ


▼第四十九夜 「火影岩」

授業を抜け出して、火影岩の上で過ごすことがあった。
天気がいいときはとにかく風が気持ちいいし、見晴らしもいいからすぐに逃げられるし。
けっこうお気に入りのスポットだったんだ。

暇な休日は一日ごろごろしてることもあった。
悪戯って気分でないときも、家の中でおんなじ風景ばっか見てると塞ぐしよ…なんかでっけーもん見てると気がまぎれた。
春先にうたた寝したときは、うっかり夜まで寝過ごしたこともあったっけ。

長い時間そうやって過ごしてると、火影ってけっこー身近なモンだって思うんだよな。
でもさあ、三代目のじいちゃんはともかく、他の三人はもう死んでんだよなー。
そう思うと、なんか不思議な気がした。

里の誰もが認める火影。
いつもオレたちを見下ろしてるこの岩。
知らないもんはいないのに、会ったことがある奴っていったいどれだけいるんだろう。
とかなんとか考えてたらさ、ある人にこう言われたんだってばよ。

歴代火影は今でも里を見守っているよ。

面をつけた人だった。
だから顔は見えなかった。
しかも会ったのはもう日も暮れている時間だった。

人のことなんか言える立場じゃないって分かってるってばよ。
でもなんで、こんなところ、こんな時間に人が…って思うとぞっとした。
あのときは慌てて逃げ帰ったけど、あれが幽霊だったのか人だったのかは分からない。

――だけど今になって…知ってる人だったような気がしてるんだよなぁ。

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