▼第四十四夜 「蛾の目」
じーっと誰かに見られている気配がしていた。
そのときオレは家の中にいて、家族は誰もいないはずだったのにも関わらず、無遠慮な視線をどこからか感じていた。
まさか監視カメラを仕掛けてられているわけでもあるまいに、いつまで経っても嫌な感覚がつきまとっていた。
その正体に気がつかないまま、数日が経っていた。
家から一歩でも外に出ればなんてことない。
家の中だけで続く不快感を、他の家族は感じていないようだった。
視線の正体は、本棚の整理をしようとしたときに判明した。
棚の木目にまぎれて分からなかったが、そこには一匹の蛾が止まっていた。
その模様がまるで、目のようにこちらを向いていた。
指の先でつつくと、わずかに身じろぐ。
まだ生きていたそいつは、家の中を人知れず飛び回っていたのだろう。
落ち着いたところで、こちらを観察するように、その羽を広げてじっとしていたというわけだ。
羽がもげないように捕まえると、窓を開けて逃がそうとした。
そして飛び立つ一瞬のことだった。
――目の錯覚かもしれない。が、オレには羽の模様が、まるで瞬きをしたように見えた。
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