掌編小説 | ナノ


▼第四十三夜 「お父様に似た人」

これは今まで誰にも話したことがなかったんだけど…ネジ兄さん、ようやく兄さんとこうして向き合って座ることが出来たから、もう話してもいいかなって思うの。
どうか最後まで聞いて下さい。

私は小さい頃から自分には才能がないと思い込んでいて、いつも半分ベソをかきながら稽古をしていた。
そしてある日、妹のハナビと手合わせをさせられて劣勢になった。
ついにお父様に見限られて、それからしばらくはひたすら型の練習。
勿論ハナビたちと同じ道場なんか使わせてもらえないから、私は毎日家から一番近い演習所に通っていたの。

私は一人で凄く心細かった。
だけど、気がつくと、お父様が木の影から私の方を見ていて…。
初めは怒られるんじゃないかってびくびくしていたけど、それどころかお父様は丁寧に指導してくれた。
そのお陰で私の動きも少しずつだけだけど、よくなっていった。
だけど心のどこかでいつも疑問を抱えていた。

それは、ハナビの稽古の時間とかぶっていたからってことじゃない。
いつもより優しいってことでもない。
もっと漠然と、だけど確信的に分かっていたの。
この人はお父様じゃない、って。

それでも私の実力を伸ばしてくれていることにかわりはないから、私は何も聞かずに指導を受けることにした。
家でのお父様と、演習所で会えるその人は切り離して、家では一言も稽古について口にしなかった。
そんな生活を続けて二週間くらい経ったとき、私はお父様に呼ばれてまたハナビと稽古をするようになった。
ずっと見放されていたと思っていたけど、私にはちゃんとお付きの人がいたみたいで、その人がお父様に色々掛け合ってくれたらしくて。
その人が言っていた。

ヒナタ様は毎日一人で頑張っていらっしゃいましたよ、って…。

そのとき私、思ったの。
あの人はお父様の弟、ネジ兄さんのお父様だったんじゃないかって。
私も岩隠れと木ノ葉のことは聞いていたから、そう思ったら急に涙が溢れてきて、こんな宗家のことを、許してくれたんじゃないかって思ったら、嬉しくて、悲しくて、どうしようもなくなって。
宗家とか分家の壁を越えて、同じ日向としての私を見てくれていたなら、私も早くネジ兄さんと分かりあいたいって、歩み寄りたいって、心から思った。
結局その日は私が泣きじゃくるから稽古は出来なかったんだけど、なぜかお父様もそれをすんなり許してくれた。

――ネジ兄さん、今こうして兄さんと稽古が出来るようになれて、本当によかった。

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