掌編小説 | ナノ


▼第四十二夜 「待機所の鏡」

上忍は専用の待機所があるのを知っているかしら。
任務を待つ忍が時間まで待機する場所なんだけど、実際は喫煙所みたいなもの。
外では話せないような情報を交換したくても、煙が立ちこめてると立ち入りたくないってくノ一も少なからずいて。
だから、火影様がわざわざもう一部屋用意してくださったのよね。

そこは半分倉庫みたいになっていた部屋だった。
ホワイトボードや折りたたみの椅子、それから投影機なんかの、使用頻度の少ない物が詰め込まれていたわ。

その中に姿見があったの。
ほこり除けに布が被せられていたけど、女ばかりで使う部屋だし、ちょうどいいじゃないってことで、出入り口の側に身だしなみ確認用に置くことにしたのよね。

それからしばらくして、私は部下を持つようになったから、自然とその部屋から足が遠のいていたんだけど…。
久しぶりに顔を出したら、例の鏡はもう撤去されていた。
きっとどこか別の場所で使うから持って行かれたのね。
そう思った矢先、初めに姿見を見かけた場所に、何故か裏向きにして置いてあることに気がついた。

ねえ、どうしてあの鏡をしまったの?

それが、奇妙な人影が写ったって言う人が後を絶たなくて…。

え…人影?

はい、髪の長い女に見えました。

人影だけだった?

人影だけでも十分不気味だったんですよ!

そう、人影だけだったの。
それなら今、私が見ているものは何なのかしら。
ほこり除けの布を押しのけて、鏡の縁を掴むように握っている、その指は。

――きれいにマニキュアを塗った指だったわ。

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