掌編小説 | ナノ


▼第三十九夜 「影踏み鬼」

そういや、まだガキの頃は、名前も知らない奴らとよく遊んでたな。
公園に行くといる奴らが適当に集まって、アカデミー生とか一般人とか関係なく遊んでた。

で、鬼ごっこをしたときなんだけどよ。
一人だけ、どうも逃げるのがうまい奴がいたんだよな。
特別走るのが早いわけでもないのに、鬼がせまってくると、曲芸みたいに体をくねらせて、うまいことかわして逃げていく。
高鬼でも氷鬼でも、いつも最後まで鬼にならないような奴だった。

あるとき、同じ鬼ごっこのローテーションだったんで、オレが影踏み鬼ってのを教えたんだ。
鬼ごっこが相手の体にタッチで鬼が交替するなら、影踏み鬼は相手の影を踏んだら鬼が交替する。
触られた感覚なんてないから、踏んだ踏まないの言い合いになるかと思って今まで提案しなかったんだが、思いのほかウケたようだった。

だが影踏み鬼でも、奴は敵なしだった。
オレとしては、影は自分の専門分野って意識があったし、今回くらいは追い詰めてみようと結構ねばったんだが…。

足元を見ながら走ってたから、すぐには気がつかなかったんだけどよ。
そいつの影、前を見ながら走ってんのに、器用にひょいひょい避けてんだよな。
それどころか、そいつの体は、走ってるだけなんだよな。

――影だけが、体に合わせないで、自由自在に動いてたんだ。

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