掌編小説 | ナノ


▼第三十五夜 「春一番」

冬が終わって、ようやく暖かくなり始めた頃。
ある女の子にあった。

真っ白なワンピースで、裸足だった。
顔は見えなかったけど、背丈からして、たぶん、アカデミーに入り立てくらいの年齢だったと思う。
そんな女の子が、土手を歩いていた私を、背後の方から追い越していったの。

瞬間、どっと風が強く吹き抜けた。
構えていなかったから、軽くよろめきかけたほどの強い風だった。
まだ寒い日が続いていたんだけど、不思議とその風はまったく冷たくなかった。
どちらかといえば、あったかい、春の陽気に包まれたようで…。

――ああ、あの子は春一番だったんだなあって、そう思えたのよね。

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