掌編小説 | ナノ


▼第三十四夜 「上着の重さ」

奪衣婆って、知ってるか?
三途の川のほとりにいるという、老人の姿をした鬼だ。
そいつは亡者の衣服を奪うと、懸衣翁という老爺に渡し、衣領樹にかけてもらう。
衣領樹にかけた亡者の衣の重さには、その者の生前の業が現れるという。
その重さによって死後の処遇を決められるらしいんだが…。

オレが下忍を持つ前は、もっと過酷な現場に身を置いていた。
命があるのが不思議なくらい、深い傷を負ったこともある。
里を守って倒れた仲間が、血の海に沈んでいくのを何度も目にした。

戦闘が終わると、オレは可能な限り仲間の弔いを行っていた。
遺体を持ち帰れることは多くない。
遺族のために何か遺品を探し、折り重なる遺体を引き上げ、まとめて埋めてやる。
血を含んだ服は心なしか重たかった。
そんなとき、オレの頭の中にはいつも、手招きをしている奪衣婆がちらついた。

こいつらの服は、果たして重いんだろうか。

里を守る大義を果たした仲間だ。
オレたちにとっては誇り高い戦士だが…人を殺めたという点では、敵となんら変わらない。
死後の評価は、こちらの事情を汲んでくれるものなのか。
先に行った奴らは無事に川を渡ることはできたのか。

――衣領樹の枝が大きくしなるイメージが、頭から離れない。

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