掌編小説 | ナノ


▼第三十一夜 「見えないライバル」

初めて本物のクナイを手にしたときの重みは、今もはっきり覚えてる。
思ったより少し大きくて、細長いから重点が定められなくて、危なげな手つきでそれを握っていた。

やっと忍らしくなってきた。

アカデミー生はアカデミーの外で忍具の使用は禁止されてたから、そのときの私は単純に、その喜びに胸がいっぱいになってたのよ。
初めて手にしたそのクナイが、なぜだか自分の体の一部のように感じられて。
その感動があったから、今の私の戦闘スタイルがあるのかも。

だけど問題が一つ!
当然だけど、初めて手にしたわけだから、今の私からは想像もつかないくらい、扱いはド下手だった。
的を狙うどころか力不足で飛距離が短かすぎる。
運命感じてただけにそれがショックで、放課後一人居残って何日も練習してたっけ。
それこそ帰りが遅くて親が探しにくるまでずっとね。
まだやるんだって私が喚いて、親に抱えられてようやく帰宅、なんてのはざらにあったわ。

そんな日が続いたある日。
気がつくと、私の他に誰かが一緒にクナイを投げていたの。
いつも決まって闇が迫ってきてからその子はやってきた。
なんの言葉も交わさないでも、あっちが私と競っているのが分かった。
私もそれにのって、焦る気持ちで練習をしていた。

三日目くらいだったわ。
ふいに隣からバン、っていい音がした。
ついにあっちが投げたクナイが、的のど真ん中に突き刺さった。
負けたな、そう思って初めて相手の顔を見ようとしたら、相手もこっちを向いて立っていた。
そして言うの。

私の勝ちね…。

ニッと笑った口元が目に焼きついたわ。
顔の印象なんてまったくないのに、その口元だけははっきり覚えてる。
薄気味悪くて後退しかけたそのとき、突風が吹いて、私は背後の木に頭を打ちつけ気を失った。

それからどれくらい経ったのかしら。
親が私を揺り起こした。
練習疲れで眠りこけていると思われたみたい。
いつものように呆れ顔で私を叱って、それからいつもと違って頭に手を置いて撫でてくれた。
よく練習したんだね、こんな短期間で的の真ん中に当たるとは思わなかったよ、って、そう言いながら。

確かにクナイは的の真ん中、そこに突き刺さっていた。
私が練習していなかった、その的の真ん中に。

――今でもたまに、アカデミーのそばを通るとクナイが風を切る音がする。でも私はそれを見ないようにして家に帰るの。

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