▼第二十八夜 「微香虫の行方」
微香虫という忍犬の数千倍もの嗅覚を持つ虫がいる。
生まれたときに初めて嗅いだ臭いをどこまでも追跡することができる。
しかし窪地に住むその虫は、環境の変化に弱く、繁殖には向かない。
そのため忍の尾行用というより、故人の隠し財宝を探させる目的で乱獲されていた。
これは親から聞いた話だが…。
あるとき、任務から何年も帰らない息子を探してほしい、という依頼があった。
その人は長期任務の最中に連絡が途絶えたらしく、里としては死亡扱いをしていた。
が、親がいよいよ危ないというときに、どうしても息子の生死をはっきりさせたいと懇願したらしい。
しかし、さっそく微香虫を探しに行ったはいいものの、あいにく季節は冬だった。
活動が鈍っているせいで、捕獲はかなり難航したそうだ。
そして季節は巡り…依頼人の孫がアカデミーに入学し、少しだけ家の中が明るくなったその頃。
ようやく一匹の微香虫の卵が持ち帰られた。
いつ孵化をしてもいいよう、幼少期の汗水染みこんだ忍服にくるまれ、虫かごに入れられる。
とうとう生まれた微香虫を放つとすぐに飛び立った。
何しろ長期任務についていた相手だ。
里の外まで行くつもりで三人体制を敷いていたらしいが、終着地は驚くほど近かったという。
微香虫は、依頼人である祖父を見つめる孫の肩に、ゆっくりと下り立った。
ああ、ずっとそこにいてくれたんだね。
…それが今際の言葉だったという。
もしかしたら、父を偲んだ子供が、忍服に袖を通していたのかもしれない。
それでも任務に立ち会った者はこう思わずにはいられなかったそうだ。
――生まれ変わりは、本当にあるのだと。
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