掌編小説 | ナノ


▼第二十四夜 「線香のかわり」

確か少し寒くなり始めた時期だったと思うんだけど…。
うちの班でよく行っている、焼肉Qってお店で、こんな光景を見たんだ。

ボクたちが食べてる横の席に、「予約」ってでかでか書いてある貼り紙があった。
入店した夕方から、夕飯目当てで混みだす時間になっても、その席はずっと予約されたまま誰も座らなかった。

ふつう予約客でも、時間どおりに来なければ、しばらくしてキャンセルになると思うんだけど、そうはならなかった。
それどころか、まだ客が来ていないうちから、次々に肉が運ばれていた。

ホコリがかぶりそうだなぁ。
そう思ってちらちら気にしていたら、お店の人がボクの視線に気がついたみたいだった。
実は…って声を潜めて、こっそり教えてくれた。

その席は、常連客がよく座っていた席だったんだって。
お肉が大好きな家族で、息子の誕生日には必ず店に予約を入れていた。
もう何年も続いていて、お店の人も恒例行事みたいに感じていたから、そのうち電話がくる前から席を確保しておくようになった。

だけどある年からぱたりと来店がなくなった。
何ヶ月も経ってから、息子が任務の最中に亡くなったって、風の噂で聞いたんだって。

でも、それからも、その席は変わらず予約席として確保しておくことにした。
天国でお腹いっぱい食べてもらえるように。
また家族が来てくれるように。

――見えなかったけどあのとき、ボクの隣に座っていたんじゃないかな。

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