掌編小説 | ナノ


▼第二十三夜 「勘がいい」

猫って、何十年も生きたら、猫又になるって言うよなァ…。

お気に入りの場所で昼寝でもしようとしたら、先客がいたことがあったんだ。
ここらでは見かけない猫だった。
のら猫なのか少し薄汚れていたが、どっしりした印象で、どこか貫禄のようなものを漂わせていた。

片手で追い払うには存在感がありすぎて気が引けた。
だから、よそに行ってくれりゃあなーと思って見ていたら、タイミングよく目が覚めたようだった。

こっちをちらりと見てから、ゆっくりベンチから降りる。
どてっ、とでも効果音のつきそうな調子で、でっかい身体を揺らして別の場所へ移動してくれるようだった。

ありがとな。

そう言ったら、猫はこちらを振り向いた。
だけどそのまま、また前を向くと黙って行ってしまう。
その後ろ姿を見ながら、思わず言っちまったんだ。

なんだ、しゃべるかと思ったのに。

…本心ではなかった。
ついぽろっと出てきた言葉だった。
だけど、ベンチに寝そべったオレに、思いがけず返事が返ってきた。

あんまり動物に話しかけんな。
勘がいい奴は引きこまれんぜ。

――さすがに、身体が固まって起きあがれやしなかったぜ。

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