掌編小説 | ナノ


▼第十四夜 「海辺の修行」

これはまだガイ班が結成され、オレとリーが出会ったばかりの頃の話だ。
あの頃のリーは体術云々の前に体力すらない、忍と言うにはあまりにも未熟な奴だった。
だがそれでも他人に引けを取らないところが一つだけあった。
それがは高みを目指すための根性…。

リーは今まで見てきたどんな忍よりも努力を惜しまない、努力の天才だ。
そんなリーを高く買っていたオレは、ある泊まりがけの任務で里を離れたのを機に、筋トレのため海辺のランニングに誘い出した。

Dランク任務とは言え午前中の過酷な肉体労働をした後だ。
続けざまに修業に入るのは想像を絶するほど辛かったろうが、リーは弱音を吐かずに必死にオレの後をついてきた。
海水浴の季節でもなかったから、海辺に人はいない。
聞こえるのは波の押し寄せる音と砂を踏む足音、それに荒い息遣い。
それだけだった。

オレはリーを励ます言葉を掛けながら、ひたすら走り続けた。
半刻ほどそうしていたときだったか。
日も傾いてきたしそろそろ切り上げようと思い後ろを振り返ると、極限まで目を見開き、未だ闘志を燃やしているリーと視線がかちあった。
これは今まさに成長の真っ最中。
ここで止めてしまっては伸びるはずの才能も伸びず、残るのはただの筋肉痛だけ。
そう判断したオレは、嬉々としてラスト一往復を宣言すると全力で走り始めた。
するとどうだ、後ろから聞こえる足音は、しっかりそのスピードについてくる。
それどころか、それはオレをも抜かす勢いで迫ってくる。

やったぞ、リー!

歓喜のあまり、そう言って振り返って驚いた。
そこにリーはいなかったんだ。
リーはオレがついさっき声を掛けたその地点で、気絶していた。

それならあの足音は何だったんだ?
疑問が渦巻き立ちすくむその横を、まるで見えない人が通り抜けたかのように水飛沫が立ち、遠くまで続いていった。

――そんなことがあってからだ。リーと並んで走るようになったのは。

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