掌編小説 | ナノ


▼第十五夜 「異空間」

口寄せの術とか、時空間忍術を使うときって、独特の感覚がするのよね。

こう、ぐにゃっと空間にひずみが出来て、その小さな場所から、物がねじれて出てくるような…。
私が忍具を口寄せしてるせいかな。
なんか、くるっていう感覚が、たぶん他の人より敏感なのね。
だからたまに気づいちゃうのよ。
ああ、ここ、別の場所に繋がってるな、って。

そのほとんどが、鬱蒼とした森の中。
野営とかで寝泊まりするとき、水を探して歩いてると、その近くにぼんやり景色が揺らいでいる場所がある。

だいたいが一人でいるときにしか感じないから、怖くて近づいたことはないんだけどね。
ある日、水を飲みにきた野生の鹿が、その空間に足を捕らえられているのが分かった。

初めは罠にかかって身動きできないのかと思ったけど、そうじゃなかった。
右の前足の先の方が、不自然に消えていて、その空間の中に入っていた。
その鹿はずっともがいていたの。
なのに逃げることは出来ない。

ズッ、ズッ…。

少しずつ、中に引きずり込まれているみたいだった。
とうとう肩まで消えかけていて、もう助けられないと思った私は、音を立てないようにそこから逃げた。

――神かくしって、ああやって消えるのかしら。

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