掌編小説 | ナノ


▼第五夜 「水仙のつぶやき」

あれは私がまだアカデミー生で、一人で店番を任されたときのこと。

うちの店にはきれいな花がいっぱい置いてあるけど、もちろんその花の全部が全部、都合よく売れるわけなくて。
咲きすぎた花とかって、お客さんが買った後すぐ枯れるんじゃ困るから、その前に取り除いちゃうのよね。
だから店のはじっこ、お客さんからはついたてがあって見えないようになってるところに、売り物とはべつの花が仮置きされていることがあるの。
ある日私がカウンターにいたら、急に声がしたのよ。

痛い、って…。

私びっくりしちゃってさ。
だってずっと入り口は視界に入っていたはずなのに、誰も入ってきてないのよ?
でも私がお母さんに店番を押しつけられる前からお客さんがいたってこともあると思ったし、何より声がしたんだから、反射的に声がした方に呼びかけたの。
そしたら、そこって店じゃなかったのよ。
そのさっき言っていたついたての奥。

当然そこにお客さんは通さないし、親も出かける用があって私に店番頼んだくらいだから、家族はいないはず。
気のせいだって、思おうとした。
だけどまたしばらくして、痛い!って声がして…。

見たわよ。
そこ、見てみたわよ。
立ち上がってそおっと覗いた。
でもやっぱり誰もいない。
だけどまだその声は聞こえ続けた。

気味悪い、早く誰か来ないかなってカウンターに戻ろうとしたら、ふと水仙が目に入ったのよね。
他にも花はいくらでもあったのに、なんでかな、私にはその花の声だってピンときた。

親も出かけるとき慌ただしかったし、結構無造作に花を取り込んでたのよね。
元気のなくなりかけた水仙が、薔薇の方にしな垂れかかってトゲが刺さってた。
それを外したら、ぱたっと声が止んだわ。

水仙の花言葉は自惚れ。
盛りが過ぎて後は枯れていくしかないって水仙でも、最期まできれいでいたいって思うものなのよねー、きっと。
私も女だから分からないでもないっていうかさ。
でもやっぱり気味悪いってのもあったから、そのときちょうど来たお客さんに、サービスで水仙の花束作ってあげちゃったわ。

――あ、ちなみにそのお客さんって、サクラ、あんただったんだけどね。

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