▼第四夜 「ネームプレート」
サクラの話で思い出したが、オレも入院中に不思議な体験をした。
と言っても、オレの部屋ではなかったんだが…。
もう退院も間近だったときだ。
トイレに行く途中に、六人タイプの大部屋があった。
どうやらそこは検査入院者が集まってはいたようで、一見すると病気には見えない人ばかりがいた。
回転も早いらしく、見るたびにネームプレートが入れ替わっていた。
しかしベッドに空きが出ることはなかった。
その日も部屋は満室のはずだった。
天気のいい日で、区切りのためにあるカーテンは、空気の入れ換えのためすべて開けられていた。
どのベッドにも誰かしらが寝ていたと思う。
それなのになぜだか、ネームプレートが一つ足りなかった。
ネームプレートはベッドと同じ配置で貼られている。
空白のその位置にも、足元の掛け布団はわずかにふくらんでいた。
まあ、急な入院で間に合わなかったんだろう。
そう思って気にも止めていなかったが、夜中になって、廊下が騒がしくなる。
急患ではなかったことが、翌日になって分かった。
亡くなったのは、ネームプレートがなかった、そのベッドの人だったらしい。
――なかったから死んだのか、死ぬからなかったのかは、結局分からずじまいだ。
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